諦めが悪い2人の人生やり直しバトル_4_藤襲山にて…

そうしてとうとうその日が来た。
真菰は錆兎と義勇を引き連れて、藤襲山へと足を踏み入れた。


鬼殺隊最終選別…その開催地である藤重山にはその年の候補者達が集っている。
参加者は毎回20人前後で、その中で生き残るのはだいたい5人以下。

山で7日間生き延びれば良いという一見たやすい合格の条件ではあるが、鬼が解き放たれているその場所で無事に過ごすのは案外難しい。

そのことをわかっているので参加者である少年少女達は一様に緊張した顔をして開催時間を待っていた。


予定では今回は20人ぴったりの候補者。
そのうち15人ほどがすでに待機中で、残り5人を待っている。

そうして時間には余裕があるが他からは少しばかり遅れて来た3人。

いや?3”人”なのだろうか…?
と、一部の候補者は怪訝な顔でそちらを凝視する。

何故そんな風に思うかと言うと、服装からすれば男子二人に女子一人の3人組。
だが3人とも何故か3者3様のキツネの面を被っている。

ここが村祭りの神社なら、随分と仲の良い事だと微笑ましく思うのだろうが、繰り返すが今居るのはこれから鬼を避けつつ7日を過ごすという、命のやり取りの場だ。

そんなところでキツネの面?
と、その場に居る誰もが思い、一部、彼らこそが何か不思議な怪異のようだと思う者さえ居た。

しかし開催者の方は彼らを認識しているらしい。

その場にはお館様と呼ばれる鬼殺隊を率いる総帥の奥様である奥方様が、尊い身でありながら自ら足を運ばれていたのだが、キツネの子ども達を目に止めて
──鱗滝様のお弟子さん達ですね?
と少し目を細めておっしゃられた。

それに先頭のどこか圧のある男児が
──御意。鱗滝左近次の名に恥じない選別に出来ればと思います。
と、もうしっかり声変わりをしている男の声でそう言う。

彼は非常に珍しい宍色の髪を夜風にたなびかせ、態度はなんだか堂々としていて、どこか市井の人間と違う空気をまとっていた。
そう、例えるなら、古の英雄のような…
風変わりなキツネの面と多くの人間と違う髪色がそう思わせるのだろうか…

その彼に呼応するように、彼から半歩ばかり下がって付き従うように立っていた、彼よりもまだだいぶ少年じみた細さの黒髪の子どもと花柄の服を着たおそらく唯一の女児であろう子どもがぺこりと頭をさげた。

3人揃って、奥方様にも…そしてこの入口の先に居る鬼にも、全く緊張した様子を感じない。
同じ候補者とは思えない。
だが、その姿の幼さを思えば彼らは確かに自分達と同じ候補者に間違いないのだろう…と、他の候補者の少年少女はそう思った。

その後、残りの二人を待つ間、黒髪の方のキツネの少年はどこか重さを感じさせぬ足取りで、最初のキツネの少年の周りをくるくるとはしゃぐように回って、どうやら軽くたしなめられているのに、キツネの少女が間に入ってとりもってやっているようだ。

この場に…そして、人の居る場にも似つかわしくない空気のキツネたち。
なんだかこれが最終選別の場だということも忘れて、皆そちらを見いっている。

黒髪の少年と少女は何を言っているのかはわからないが、小さなクスクス笑い。
唯一最初の少年キツネだけが、今後を少し気にするように、刀の状態を確認していた。

そうして皆が3人のキツネの子に意識を向けている間に、いつのまにやら残り二人が合流して、それから少しばかりして集合時刻、18時になる。

最初の候補者がたどり着いた頃にはまだわずかばかりに見えていた青い空が赤く色づいて…そしてこの時間になるとすっかり夜のとばりが降りて黒くなる。

唯一、欠けることなく丸い月のあたりだけがわずかばかり青みがかっていて、そのかすかな明かりと松明が、暗い夜の木々を照らしていた。


──これより最終選別を行います

凛とした奥方様の声。
それに改めて緊張に満ちた空気がその場を支配するが、唯一…宍色の少年キツネの左右に並ぶ黒髪の少年キツネと少女のキツネの周囲だけ、どこかふわりふわりとした空気が漂っている気がした。


そうして開始の宣言のあとに奥方様が試験の説明をして下さって、それが終わると最後にかけられた
──…では、いってらっしゃいませ
の言葉で、皆が試験会場の森の入り口にある鳥居をくぐって、危険に満ちた鬼の巣へと走り出して行ったのだった。









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