彼女が彼に恋した時_エピローグ

──ね、あそこのご夫婦…?
──うん、すっごく若いけど…でも保護者よね?
──あ~、知らないの?この学校に結構子どもが入学してる近所の狭霧山幼稚園の…
──そうそう、会長よね。
──ママたちの憧れのPTA会長様よ(笑)
──憧れ?
──うん。イケメンでデキる男なのに奥様が大好きすぎるところが園の奥様達に大人気の(笑)
──そうそう。夫に見習ってほしい男ナンバーワンね(笑)

今日は産屋敷学園小等部の入学式だ。
そこに錆兎と義勇は夫婦そろって、双子の息子と娘の親として参列している。

あのあと義勇が18になったその日に籍を入れ、まだ学生ということで式はささやかに大学入学前の春休みに。

義勇は大学1年のうちは極力授業を減らしてぎりぎりまで講義に出て出産。
育児は冨岡家の家族だけではなく、友人達もちょくちょく訪ねて来ては手伝ってくれて乗り切った。

…という奥様方の印象通り大変若い両親なのだが、その生計は最初こそ伝手を使ったものの、錆兎はシステム、義勇は翻訳と共に在宅仕事で普通に回しているだけではなく、他と違って若い親ということで子どもが不自由をしないようにと、錆兎は幼稚園の奉仕活動も積極的にこなしている。

そうして双子揃って二人の母校へ入学とあいなって、感慨もひとしおだ。


──桜は私の時と違って錆兎にそっくりの頼りになるだけじゃなくて顔も良い頼光が居るから心配ないな。

新入生の入場に大きな拍手を送りながら緊張した様子で歩く子ども達に視線を送る義勇に、

──頼りになるのは同意だが、心配ないという理由に顔が良いと言うのは関係ないと思うが?
と、その横で呆れた様子でつぶやく錆兎。

まあ…頼光の顔が良いかと言うとまた別問題だが…と、息子が自分の瓜二つなのもあってそう付け加えておく。

それに義勇は
──頼光は錆兎にそっくりだから、世界で二番目に顔が良い!
と、即そう断言して、それから
──顔が良い方が守られる方も楽しいし、周りも親切にしてくれる。
と、持論を展開した。
夫と息子の顔が良いという主張がまず大事らしい。

錆兎に言わせれば顔が良いということなら、そっくりな妻と娘の方がよほど顔が良いと思うのだが、そのあたりはもう言い争ってもきりがない。

なので
──心配しないでも、桜のクラスの担任は村田らしいから卒のない学校生活が送れるだろう
と、さらっと別の方向へと話を誘導した。

そう、村田はあれから教職を取って、母校へと就職をしていた。
同級生が子どもの担任なんて、自分達も年をとったなぁと思うわけなのだが、村田が小学校の教師になったのは、なんだか似合いだなとは思う。

──とりあえず…奥さんと暮らしていくには手に職は必須だからね。
と言うのは、村田が就職して所帯を持ったあたりで聞いた。

看護師の奥さんが日勤の日の夜は絶対に家にいる。
夜勤の時には疲れて帰ってきた奥さんが温めるだけで食べられる食事を用意した上で仕事に出かけるという、こちらも結構な愛妻家っぷりだが、まあ、錆兎と義勇以上に幼い、まだ奥さんが小学生の頃に出会って今まで気持ちが続いていることを考えれば納得と言えば納得だ。

元不死川寿美…そして生田須美を経由して現在村田寿美。
村田の奥さんは例の激動を生きた不死川家の次女だ。

あれから色々問題はあるにしろ、母が他全員を連れて逃げてしまったため、不死川家の祖父母が唯一の孫となった実弥を引き取って、兄とはそれ以来で、寿美はその後、高校から看護師の学校に通って5年。
正式に看護師になって自活できるようになって、最初の賞与を下の弟妹に使ってくれと全額母に渡し、その後、家族とは離れることにしたらしい。

──大志さんとさ、一緒になる前に、身軽な体になりたかったんだよね。
と、相変わらずサバサバした様子で笑って言う寿美。

──あとは姉ちゃんに自分の旦那見せたくなかった
と、肩をすくめる。

え??
と、その発言の真意を測りかねて気づかわし気に幼馴染に視線を向ける錆兎だが、村田は苦笑して首を横に振る。

「違うからねっ?!
俺のことが恥ずかしいからとかじゃないからっ。
これでも一応ちゃんと良い先生やってるんだからね?」

と言う村田の言葉で、ようやく寿美が自分の言葉が起こした波紋に気づいたらしい。
そちらも苦笑して、違う、違うと首を横に振った。

「あ~…なんて言うかね、ちょっかいかけられたくないって言うの?
あの人も結局高校出てOLなんてやってたんだけど、なんだろ~、鱗滝さんのことでタガが外れちゃった?
パートナーが居る男ばっか好きになるんだよねぇ。
既婚者も含めて略奪とか未遂とか繰り返して、現在×1で、今つきあってるのは確か既婚者だな。
女と一緒に居て卒のない行動取れるのは彼女や奥さんがそう育てたからで、でもいくら一緒に居る時は優しくて卒がなくて心地よかったとしても、浮気する男は飽くまで浮気するような男なんだから、自分が取る側から取られる側になるだけなんだって、なんでいつまで経ってもわかんないのか超不思議なんだけど」

あの優等生の弟妹の良いお姉ちゃんだった貞子が?と義勇は驚き、錆兎は、なるほど、そっちの意味だったか…と、納得した。

そういうわけで寿美が実家とほぼ縁切り状態なら、自分も少なくとも実家に顔を出すくらいはしても依存したりされたりは避けて、完全に二人だけの家庭を作っていこうと、村田は寿美と一緒になると決めた時点で決意したらしい。

なので、寿美が務めて1年、村田が務めて2年経過したあたりで籍を入れて一緒に暮らし始めたが、生活を安定させることを優先で、式も旅行もなし。
ウェディングフォトを撮っただけ。

せめて幼馴染周りは自分達が主催でパーティーでもと思ったのだが、それも寿美に気を遣わせたら可哀そうだからと遠慮された。

なので結婚後、祝いのカードと祝いの品は送ったものの、直接会ったのは半年ほど経ってからだ。

「鱗滝さん達、ごめんね~。大志さんもそんな気を使ってくれなくても大丈夫だったのに」
と、本人はいたってサバサバした様子で言うが、自分を隠すことに関しては徹底している不死川家の女なので、やはりそのあたりは気を使い気味の方が良いのだろう。

それから数年経ったいまでも、互いに気を遣うところは使いながらも、彼ららしいしっかりと地に足のついた幸せそうな家庭を築いているようなので、まあ良かったと思う。

そんな村田が自分達の娘の担任になったことにはとても驚いたのだが…。


「まあ…桜は世界で一番と二番に良い男が身内だから、世界で3番目以下の男としか結婚できないのだし、そのハンデを考えたら担任が村田君くらいの下駄を履かせてもらっても全く問題はないと思うけど…」

話をそらしたつもりでも、義勇はそらされるつもりはなかったらしい。
相変わらず続く話題に錆兎はため息。

もうこれはやり返すしかないのでは?と思って
「それを言ったら頼光だって世界で一番と二番の美女が身内で嫁に出来ないんだから、可哀そうじゃないか?」
と言ってみたのだが、義勇はきっぱり

「世界で一番の美女は私や桜ではないから大丈夫っ!」
と、どやあっとした顔で言われてまたため息。

第三者に対しては圧倒的に弁が立つ自分の方が言い勝てるが、相手が義勇となると途端に勝てる気が失せる錆兎は、そこで一般論として語るのは諦めた。

「あ~…少なくとも俺にとってはお前は世界一の美女なんだが…。
そうじゃなきゃ、あんなに面倒くさい男だった不死川をシャットしてまで彼女にしないし、あんなに焦って婚約を進めたりもしなかった」

そう言うと、義勇はもう今日はずっと続いているドヤ顔。

「甘いなっ。
私はあの中学の入学式に錆兎が駆け寄ってきてくれた瞬間、そのカッコいい性格と行動と顔に恋をして、家族を巻き込んで錆兎を婿にしよう団を結成したんだからっ」
などと言って笑う。

そうか…彼女が自分に恋した時はあの時だったのか…。
じゃあ、自分は?と考えると、自覚した時は恐らく不死川に義勇の事が好きなのか?と聞かれて義勇の好ましい点について延々と説明した時だと思うのだが、それ以前にやっぱり好意を感じなければあんなに目立つ場所であんなに目立った行動はとらなかったんじゃないだろうか…とも思う。

そう考えると彼女が彼に恋したのも、彼が彼女に恋したのも、初めて出会ったあの中学の入学式の時だったのだろう。

運命…そう、運命だ。
恋はするものではなく落ちるものだとはよく言ったものだ。
錆兎は今更ながらそんなことをふと思ったあとに、しかし今しなければならないこと…最愛の妻との愛しい子ども達の晴れ姿を見るという重要な使命に集中することにしたのだった。








2 件のコメント :

  1. 連載お疲れ様でした。素敵なお話しをありがとうございました😊 スノ様の安心安全の錆義ですが、途中かなりヒヤヒヤどきどきしました。やはり錆兎は義勇さんには勝てませんね😊貞子は幸せとはほど遠い道を選択したのですね。結局、自分の事しか考えられない人間だったので仕方ないですね。村田さんも寿美ちゃんも幸せになって良かった‼️次回のお話しを首を長くしてお待ちしています。よろしくお願いいたします☺️

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    1. 思いがけず長い話になりましたが、最後まで読んで下さってありがとうございます。
      錆義はやっぱり最終的にくっつくにしても互い以外と致して欲しくない感があるCPなんですよね、私の中では😀
      貞子ちゃんはなんというか…すごく余裕がなくて、目先の良さげなものについつい飛びついてしまってどつぼにはまるタイプで、寿美ちゃんはよく考える慎重派。
      外見的には反対に見えるんですが、寿美ちゃんは堅実に石橋をたたいて渡る生き方をしています。
      そういう意味では派手じゃないけど旦那さんとしては実は能力があるだけじゃなくて、危ないことをしそうにない、堅実な家庭を築けそうな相手ですよね、村田さんて😊

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