彼女が彼に恋した時_13_幕間19

そして当日…家を出てからはめちゃくちゃ忙しかった。
ポイントは次兄に邪魔をされないように、母と自宅に戻る事。

なので映画館の入っているショッピングモールで映画館に直行すると、次兄に弟妹を連れてジュースやポップコーンを買ってくるようにと列に並ばせ、その間に母に、自分と一緒に自宅に戻るようにと指示をする。

母は当然戸惑うが、このところ、父から逃げる算段とか色々話し合っていたこともあって、とりあえず寿美の事は信じてくれたようだ。

とりあえず次兄には、子ども用の映画だし、本当に滅多にないことなので、それを見ている2時間ほどの間、たまには母と二人で買い物をしたいのだと寿美が主張する。

外の人には非常に乱暴な兄達は、それでも弟妹…特に妹には甘かったので、次兄はそれを聞いて、生まれてから一度も母を独占したことのない寿美をも楽しませてやりたいと思ったらしく、それを了承してくれた。

そこからは怒涛だった。

車は宇髄先輩が用意していてくれて、宇髄先輩の家の運転手さんが運転する間、後部座席で村田さんと共に状況を説明する。

母は話を聞いて泣いた。
自分が早く行動をしなかったから、兄や姉がこうなってしまったのだと泣いた。

でも寿美に言わせると、それは一理あるけど完全にそうだというわけではない。
だって自分達は自宅で閉じ込められて育っているわけではない。
ものの善悪だって幼稚園や学校、もっと言うならネットとか、社会で学ぶ機会はいくらでもあるのだ。

環境で少しばかり罪悪感を感じる部分が少ない人間に育ったとしても、社会で生きていくためにここまではやったら犯罪と言うルールはある。
それを知る機会もあるわけだし、見つからないように…それでも犯罪に手を染めるかどうか、それを決めるのは兄や姉自身だ。

まあとりあえず宇髄先輩が見守りカメラの映像をなんだかご立派なディスプレイに映し出してくれる。

姉に顎で使われながらも兄は真面目に掃除。
さらに姉に言われて兄がアイスティ用の紅茶を作っている。

もし冨岡さんが来るという事実がなければ、これはこれで和やかで微笑ましい風景だと思う。

しかし姉の
「今日ね、冨岡先輩がお菓子習いにうちに来るから。
兄ちゃんが居たら色々嫌がられるかもだから、来たら兄ちゃんは自室から絶対に出ないでねっ。
私の信用問題に関わるんだから、絶対だよ?!出てきたらキレるからねっ?!」
という言葉で台無しだ。

冨岡さんが来るのに長兄が大人しく部屋に籠っているはずがない。
姉は長兄と冨岡さんを引き合わせる気満々だ。

先日兄のベッドにあった漫画とか、色々現在の状況を考えると恐ろしい。
まあ…長兄が自分がどれだけ冨岡さんに嫌がられているのかいくら言っても理解しないのはガチとして…でもまさか姉が居る目の前で襲えるほど頭がおかしくはないだろう。

そのあたり、どういう展開になるんだろうか…。

もしかして自分の考えすぎだったんだろうか…
姉がすごく視野が狭くなっていて、長兄と冨岡さんを引き合わせれば長兄が押し切って二人が付き合うかもなんてありえないことを考えているだけだったら、せいぜいしつこくする長兄をたしなめるのに宇髄さんあたりが居てくれるだけで済んだのかも…。
母さんまで連れて来なくても良かったかも…
と、寿美はそんなことを考え始めたが、どうやら考えすぎどころか、事態は最悪の展開を迎え始めていた。


冨岡さんが自宅を訪ねて来た時、姉が兄を2階に追いやったのは良い。
途中で我慢しきれず降りて来たとしても…姉がもしそこで兄との仲を取り持とうとしても、冨岡さんが帰ってしまえば終わりだ。
それでもしつこいようなら自分達が突入して止めればいい。

そんなことを思って居たら、キッチンでどうやらアイスオレンジティを作ろうとしたのだろう。
今朝兄が作っていたアイスティとオレンジジュースを出した姉は、棚の中から何かを出してアイスティに入れている。

やばいものか?と寿美は一瞬警戒したものの、入れたのはみたところ極々少量で、さらに姉は自分の分らしきグラスにもそれを使ったアイスオレンジティを注いでいたため、何かの香料だったのかと安堵したものの、安心している場合じゃなかったことに寿美はすぐあとに気づくことになったのだった。


オレンジティを二人分トレイに乗せてリビングで待つ冨岡さんに片方を出し、片方を正面のソファに置く。
そこまでは良かった、


しかしその後すぐ、買い忘れがあるからすぐそこのコンビニで買ってくるから待っていて欲しいと言ってリビングを出る。

そこまではギリギリ微妙なところだったが、そのあと二階へ駆けあがった時点でアウトだと思った。

おそらく兄に買い物による自分の不在を告げているものと思われる。
そして兄に自宅に冨岡さんと二人きりになると伝えたならどうなるかなんてわかりすぎだ。

幸いにしてもう家の裏にはついていて、いざとなればすぐ突入できるし、自家の車ではなくて宇随家の車なので姉にも気づかれないだろうから、物理的にはなんとかなる。
ただ、姉の加害意識を認知して、寿美が欝なだけである。


そうしているうちに姉は家を出て、出来れば飲まないで欲しいと願ったものの冨岡さんはアイスティに口をつける。

そしてたぶん…酔ったようだ。
ぽわんとしている。

寿美的最後の希望は兄がそこで理性で自室に籠っていてくれることだったが、あの長兄に理性なんてものはない。
思って居た通り欠片もなかった。

もう犯罪者の顔でリビングのドアの所で様子を窺っている時点で寿美は先輩達と共に車を飛び降り、玄関先で弟が置きっぱなしにしていたプラスティックのバットを握る。

そうして寿美は当初の予定通り、兄が冨岡さんの手を拘束したタイミングで突入し、後頭部を思い切りどついて止めたのだった。







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