彼女が彼に恋した時_13_幕間18

ごめん…本気で村田さんを舐めていた…
と、寿美は人生で初の猛省をした。

見た目も成績も運動神経もまあ普通っぽいので、出来る人だなんて夢にも思わなかったのだが、この人、マジとんでもない人だ…と、もう目からぽろんぽろん鱗が落ちまくった。


まず…状況判断能力がすごい。

「たぶんね…不死川を止めるのには錆兎は有用なんだけど…ことそれが冨岡に関わることだと暴走する可能性もあるし、なにより感情的に関係者一同に対する拒絶反応がどうしてもあると思うんだ。
だから止める手伝いは宇髄あたりを巻き込むのが良いと思う。
それで完全にね、そっちが解決した時点で止められたのは寿美ちゃんの尽力のおかげって形に持って行って、そこから不死川との引き離しと寿美ちゃん達が逃げる件については協力させるのが良いんじゃないかな」

と、自分の友人に対してもすごく冷静に分析して、適材適所の提案をしてくれる。
ついでに宇髄先輩への説明と依頼も引き受けてくれた。

こんなに至れり尽くせりなのは生まれて初めてで、寿美はびっくりしてしまう。
思わずそれを口にすると、村田さんは

「いやいや、寿美ちゃんまだ小学生でしょ。
みんな放置し過ぎよ」
と苦笑した。

その時に初めて言われたのだ。
手がかからない子というのは周りが手をかけなくて自分でやるしかなかった子なのだ、と。

そして…村田さんは下に妹さんが居て、やっぱり親御さんが上の子でしかも男の子だからと手をかけない傾向にあったとのこと。
それでも自分はその立ち位置がとても気に入っているし、少なくとも生きていくのに困らないレベルでの手はかけてもらってきたからまだいいが、寿美はそんな村田さんから見ても。危険なレベルで放置され過ぎているということだった。

ということで…宇髄先輩も巻き込んで、不死川家で何か変わった動きがありそうな時はすぐ村田さんに連絡ということで、話が決まる。

そして…その変わった動きというのが発生したのは、それから数日後の事だった。


姉が母に弟妹を映画にでも連れて行ってやるように提案。
これはもう決まりだろう。

その日程は即村田さんに流し、村田さんから宇髄さんにも連絡がいって、二人の予定を空けておいてもらうことに。
そうして村田さん経由でこっそり、姉がその日に冨岡さんを自宅に招いている事を知る。

そうなればもう何か企んでいることは決定だ。

案の定、姉は冨岡さんを招いていることは言わずに、ただみんなが出かけている間に大掃除をするから、力仕事のために長兄だけ置いて行けという。

もう怪しい。怪しすぎる展開だが姉は自宅で邪魔する人間が居るとは思っても見ないらしい。
なので、まあ動きやすいと言えば動きやすかった。

村田さんと相談。
冨岡さんに関しては、菓子作りを教えるからと言って招いているらしいので、何かまずいことが起きる現場として考えられるのは、キッチンかリビング。

前日の夜中、寿美はその両方に弟妹達が赤ん坊だった頃に使っていた2つの録画機能付きの見守りカメラをセットした。

これで何か危なそうな事があれば、外から様子を窺ってギリギリで介入できるし、何が起こったのかも録画できるので色々な意味で証拠になる。

母にも予め言っておきたいところなのだが、母は顔に出るかもしれない。
一度バレて阻止しようとされていると姉が感じたならば、次からはこんなにわかりやすく無防備な計画を建ててはくれないだろうから、姉に怪しまれるような要因は極力避けたい。

なので当日、映画館のある建物に着くまでは母にも内緒だ。
それでも不安はない。
これまで寿美が色々画策せざるを得なかったどの計画よりも安心感がある。

ああ、誰かに頼れるってこんなに楽だったんだ…と、寿美は初めて鱗滝先輩の彼女になって守ってもらいたいと切望する姉の気持ちがわかった気がした。

まあ…それでも寿美はそれを阻止する側なのだけれど……








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