……ふぇ…?
てっきり気づかれた瞬間に逃げられると思い、そ~っとドアを開けてリビングに入った実弥に気づいたようだが、義勇は逃げない。
なんだかほわんとした潤んだ瞳でこちらを見つめている。
あの漫画でヒロインがだいぶ主人公の不良にほだされて来た時の、ああいう行為をする前の少しその気になっているシーンのような表情だ。
これは…思ったよりも早くほだされてくれるんじゃないだろうか…。
というか、実は義勇も自分のことをそういう風に意識していたのか…。
それでも逃げない野生動物に近づく時のように、極力静かにゆっくりとソファに座る義勇の所まで歩を進めると、実弥はぼんやりとしている義勇の両手首を片手で拘束して、空いている手をスカートに伸ばした。
…えっ…えっ…やっ…いやっ!!
何故かそこでようやく義勇が実弥に気づいたように抵抗を見せた。
──…だ、大丈夫っ…優しくすっからよォ……
と口では言うものの、優しくなんてできそうにない。
しつこいようだが限界ぎりぎりで貞子に邪魔をされたので、身体も心ももう限界だ。
実弥の息子はもう痛いくらいガチガチになっていて、それがあの漫画のように義勇の中に入る事を想像しただけで暴走しそうになっている。
──と、とみおかァ…お前だって俺のこと好き……
…『だろう?』と続けようとした言葉は
──なわけあるかあぁぁ~!!!!
という聞き覚えのある怒声にかき消され、後頭部をすさまじい衝撃が襲った。
へっ????
あっという間に手を外された義勇は、ひょいっと目の前からかっさらわれ、宇髄の手に。
そして、声の主…寿美が弟達愛用のプラスティックのバットを構えて仁王立ちしている。
「ほんっとうに、最低だよっ!!
お願いだから死んでくれるっ?!!
あんたのせいであたしや弟妹達が性犯罪者の家族になるとか、マジ勘弁だからっ!!」
怒鳴りつけられても本当に現状が把握できない。
寿美の後方には母親も居て号泣している。
「…なんでここに…?映画は…?」
呆然とする実弥。
それに寿美は、はあぁ~と腰に両手を当てて、ため息をついた。
そして
「一番近い映画館に玄弥兄と下3人を放り込んで、あたしと母さんだけ戻ってきた。
今日、絶対にうちで何かやらかしがあると思ったから」
と言う。
よく…わけがわからない…。
実弥だって今日義勇が家に来ると知ったのは、皆が映画に行ったあと、貞子から聞いたからだ。
それまでは本当に知らなかった。
しかしそれを言う前に
「…貞子姉と実弥兄とどっちが主犯か知らないけど…」
と言われて、肝が冷えた。
貞子が…何か思うところがあって、わざと自分と義勇を二人きりにした…?
最近マウントをとるような発言も多かったが、貞子は元々は優しい娘だ。
今にして思えば義勇と話せない実弥のために話す機会を作ってやろうと思ってくれたのかもしれない。
そんな貞子に迷惑はかけられない…。
「…お…俺が…貞子に半ば強引に頼んだんだ…。
2人きりになれる時間を作ってもらったら、もう冨岡にも他の誰にも乱暴なことをしたり言ったりしねえし、みんなに迷惑をかけねえからって……」
思わずそう言えば、信じているのか居ないのか、寿美は
──ふ~ん……
と冷ややかな目で言う。
しかしそこで、事態はさらに恐ろしい方向に向かった。
──お前…冨岡に何飲ませた?
と、それまでは黙って義勇を抱えていた宇髄の言葉。
普段は飄々とした態度を崩さないこの男にしてはずいぶんと固い声音で、実弥は青ざめる。
──な…なにって……
実弥自身は何も飲ませていない。
というか、実弥が何か勧めたら義勇は絶対に口をつけないであろう自信すらある。
──…このお茶?
と、寿美が義勇の座っていた席の前に置いてあるグラスを手に取った。
ストローが刺さったそれは飲んだ形跡がある。
そこで寿美がサッとキッチンの方へと駆け出して行った。
そして何かをいじっている。
──たぶん…お酒。あとは…目薬?
それを聞いて宇髄は。あ~~と天井を仰いだ。
──とりあえず救急車呼ぶぞ。これはかばえねえ。
と、義勇をいったんソファに下ろすと、スマホを出して電話をかける。
実弥には何が起こっているのか全くわからない。
だが、自分がかなり追い詰められた立場であることはわかった。
ありがとう寿美ちゃん ( ≧Д≦)ありがとううずてん( ≧Д≦)ノシ家族の4/9が犯罪者⋯⁉に⋯
返信削除家族からのとばっちりを恐れて寿美ちゃん必死です💦
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