彼女が彼に恋した時_13_幕間6

冨岡義勇は約束の10時ぴったりに来た。


──は~い!今開けますっ!
とインターホンで応えるのと同時に、貞子はそれまで一緒に準備や掃除を手伝ってくれていた長兄を

──先輩来たから兄ちゃんは自分の部屋ねっ!
と、私室のある二階へと追いたてる。

そうしてパタパタと慌ただしく玄関に駆け出してドアを開ければ、そこには私服の冨岡義勇。

エプロンをしていても汚れる時は汚れるからラフな格好で…肌なら布地と違って即洗えば良いだけだからなるべくなら半袖かノースリーブで…と指定したため、シンプルなTシャツにエプロンで隠れるくらいの丈の膝上のスカート姿。

いつもは制服のスカートを短くもせずひざ下5cmほどで着ていて、野暮ったい感じを受けるのだが、こういう姿を見ると、ああ、容姿はすごく良いのだなと思い知る。

まあ…今回に限るなら、長兄に血迷ってもらわなければならないので、美人だろうとスタイルが良かろうと良しとしよう。

そう自分を納得させて、貞子は冨岡義勇を笑顔で家に招き入れた。



──お邪魔します…
と、玄関先でそう言う義勇をリビングにいったん通して、貞子は

──とりあえずお茶でも淹れてくるのでかけて待っててください。
と言いつつ、リビングを出て駆け足で玄関へ。

そこには脱いで揃えた冨岡義勇の靴がぽつんと置いてある。
それを靴箱の奥へと隠す。
そう、少しでも逃げにくいように…

そうして本当にお茶を煎れにキッチンへ。
ちらりと二階に続く階段を見るが、人の気配はない。
まだ兄は大人しくしているようだ。

まあそれはそうだろう。
たとえ冨岡義勇と話したいと思って居ても、話したい内容が内容だから、いくら他人を気にしない長兄でも妹の貞子が居るところでは恥ずかしいと思うくらいの羞恥心はある。

貞子が居る間は降りてこないだろう。

…ということで…貞子はグラスを二つ用意して、冷蔵庫から朝のうちに長兄に作らせたアイスティを出した。
そしてそれでオレンジアイスティを作って、そこに父のウォッカを数滴と目薬を数滴。

それと茶菓子に今日教える予定のクッキーを添えてリビングへ戻る。

「お待たせしました。
これ、今日、一緒に焼く予定のクッキーです。
良かったらお茶と一緒に味見してみてください」
と、にこやかに冨岡義勇の前に置き、自分の分はその正面に。

そうしておいて、
「ごめんなさい、私うっかりしてて、バターを使い切ってたの忘れてたので、すぐそこのコンビニで買ってくるんで、少しだけお茶飲んで待っててくださいね」
と言って、了承を得てリビングを出ると、二階に上って長兄に

「ちょっと材料の買い忘れがあったから駅前のスーパーに行って買ってくるからっ。
先輩もう来てるから、下に降りないでよっ?!」
とドア越しに声をかけ、玄関に。

ちなみに…コンビニまでは徒歩3分だが、駅前までは徒歩15分。
まあお察しというところだ。

あとは…とにかく長兄の活躍を願って…と、貞子は上機嫌で財布とスマホとエコバッグを持って、颯爽と家を飛び出した。







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