彼女が彼に恋した時_13_幕間5

──家じゅうの大掃除するからっ!
と、長兄以外の弟妹と次兄を母と共に出かけさせた休日。

不死川家は子どもの人数が多いので、子ども達みんなで出かけるのは一苦労だ。
かといって下の弟妹達は幼いので自分達だけではなかなか出かけられない。

学校で話題のアニメ映画など、映画館に観に行くことなど普段は出来ないのだが、今日は貞子がたまには連れて行ってやらないと可哀そうだと主張。

ついでに自分が留守番をして、邪魔をする弟妹が居ない間に家じゅうの大掃除をしたいからと、母を説得。

もうある程度自分の面倒は自分で見れて、なんなら少しくらいは下の弟妹の面倒を見られる次男次女を母のヘルプにつけて、長兄だけは貞子では出来ない力仕事や高い位置の作業のために残ってもらって、他全員を映画へと送り出した。

こうして母の運転するミニバンが見えなくなるまで玄関先で見送って、
──さあ、兄ちゃん、ちゃっちゃとしたくするよっ!
と、貞子はエプロンの紐を後ろできゅっと結んだ。


今日、冨岡義勇が家に来る。
先日、料理を頑張るという彼女を、じゃあ教えるから休日に一緒に焼き菓子を作ろうといって家に誘った。

もちろん本当の目的はそれではない。
それなら別に弟妹や母が居ても問題はない。

そう、本当の目的は彼女を長兄に引き合わせるためだ。
その際に…少しばかり長兄が暴走するかもしれない。
いや、してくれないと困る。

そのために貞子はさりげなく長兄の部屋に、初めは全くその気はなかったけれど強引に出られたら押し切られていつのまにか好きになっていた…系の、少し過激な少女漫画とかを忘れて行ったりもしてみた。

そのうえで、
「今日ね、冨岡先輩がお菓子習いにうちに来るから。
兄ちゃんが居たら色々嫌がられるかもだから、来たら兄ちゃんは自室から絶対に出ないでねっ。
私の信用問題に関わるんだから、絶対だよ?!出てきたらキレるからねっ?!」
と念を押す。
そう、これで下準備は万端だ。


母たちは午前中の映画を見て、みんなで昼を食べて、おそらく夕飯の買い物までして夕方ごろ帰ってくる。

だから母たちが少し早めに家を出てからは本当に大掃除。
特にキッチン周りは人を招くのだからと、兄に換気扇の掃除までさせて、自分もせっせとあちこちを綺麗にして回る。

このあとの展開を思うと、ついつい出る鼻歌に、長兄は
──ずいぶんご機嫌だなァ
と換気扇を掃除するために乗った台の上からちらりと見降ろして言うが、当たり前だ。

今日、計画通りに行けば、冨岡義勇はさすがに鱗滝先輩とは別れるだろうし、理由も言ってもらえず別れを告げられた先輩を慰めているうちに、先輩もほだされてくれるはずだ。

その時のことを想像するとなんだか顔が熱くなる。



ということで、このあと冨岡義勇が来たら、調理中に貞子は買い忘れを思い出して近所のスーパーに買い物に行く。

長兄も貞子が居る間は自室に籠っているだろうが、貞子が出かけて冨岡義勇が一人になったら我慢できずに下に降りてくるだろう。

貞子は冨岡義勇に焼き菓子の作り方を教えていただけだし、買い忘れを買いに行く時も兄に部屋から出ないように念押しをする。

それで鱗滝先輩に顔向けが出来ないような状況になったとしても、それは貞子のせいではない。


これは最終手段で、失敗は許されない。
そう、一歩間違えば非常にまずいことになる。
それでもここまで来て計画を中断するという選択肢は貞子にはない。

そう、誰を不幸のどん底に突き落としても、幸せというものは掴んだもの勝ちなのだ。







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