また失敗したっ!!
鱗滝先輩略奪計画があまりにうまくいかなくて、貞子は少し苛々してきた。
だから二人きりで話をして辛い現状を訴えて同情を買うことが出来れば、略奪も不可能ではないと思うのだが、二人きりになることが出来なさすぎだ。
鱗滝先輩は常にだれかと一緒にいる。
彼女の冨岡義勇はもちろんだが、彼女と居ない時でも必ず村田さんがついている。
これがデキるモテ男の宇髄先輩とかなら、あるいは貞子の狙いに気づいて止めるためにいるのでは?と思うが、相手は村田さんである。
男のくせにやけにさらさらの綺麗な髪をしていること以外には良くも悪くも特徴のない、本当に平々凡々な彼が貞子の計画に気づいているとは思えない。
単に鱗滝先輩とは幼馴染だというから、そのせいなのだろう。
しかも…普段なら非常に空気を読める男なのに、この件については、どれだけ貞子が鱗滝先輩と話したいオーラを出していても気づいてもらえない。
こうなったらもう察してちゃんしている場合じゃない!
──せ~んぱいっ!ちょっと確認したいことがあるんですけど…
と、校門の陰で剣道部の部活が終わるのを待って、鱗滝先輩に声をかけてみた。
鱗滝先輩は当然一人きりではなく、その時は同じ部活ということで煉獄先輩達と一緒だったが、
──なんだ?帰り道に杏寿郎達も一緒でも構わないか?
と笑顔で聞いてくる。
(…ぜんっぜん構わなくないんだけどなぁ…)
と思いつつ、貞子は、
──…ん~~
と少し悩むふりをした。
そして
「ほんと、答えによっては3分ですむので二人じゃダメですか?
他の人に聞かれるのはちょっと…
他人様のプライベートに関わることなので、勝手に聞くのも本当はNGだということは重々理解しているんですけど、誤解とは言え亜優の事があるので、距離感失敗したくないので…」
と、少し困ったように笑って言う。
頭も良い鱗滝先輩はそれで察してくれたらしい。
それでも、
──じゃ、杏寿郎、悪いが5分ここでまっていてくれるか?
と、煉獄先輩を待たせるあたり、長い時間ふたりきりになることは出来ないと、そう言葉に出さずに牽制されている気がする。
さすが鱗滝先輩。
ラインの引き方がスマートでカッコいいなぁ…と貞子は惚れ直してしまった。
そうして鱗滝先輩はなんと玄関横の自販で無糖のコーヒーとミルクティを購入。
「立ち話になって悪いが…」
と、ミルクティの方を貞子に渡してくれる。
ああもう!こんな風にぶっきらぼうなのに優しいなんて、なんで乙女心を鷲掴みにする気遣いを見せてくれてしまうのだろう。
これは惹かれる自分が悪いわけじゃない。
カッコよすぎる鱗滝先輩が悪いのだ。
「私の用事なのにすみません。でもありがとうございます。ご馳走になります」
と貞子は内心そんなことを思いながら礼を言ってそれを受け取った。
そうして互いに飲み物を一口。
──で?確認したいことって?
と先輩に聞かれたので、貞子は予め考えていた通り
「竈門君と胡蝶さんなんですけど…お付き合いしているんですか?
もしお付き合いしているのなら、私、竈門君とは二人きりになったりはしないように気を付けないで大丈夫でしょうか?
2人一緒に居てくれる時もあるけど、どちらかだけの時もあるので、お付き合いしているなら竈門君だけ居てくれる時は、胡蝶さんは実はあまり気分が良くないのかなって…。
そういうので揉めるのは避けたいので…」
と鱗滝先輩が貞子のフォローを頼んでくれた後輩達がたまたま男女なので、気遣いを口にしてみた。
これは鱗滝先輩と二人きりになりたいとかではなく、他人のプライバシーに関する話題だから当事者以外には言わない方が良いというきちんとした理由付けになるというものであり、さらに貞子が略奪とかそういうのを避けたいと思って居るというアピールにもなる、我ながらなかなか良い相談だと貞子は思っている。
──ああ、そういうことか…
と、案の定、鱗滝先輩は貞子の真意を疑ってみる様子はない。
それどころか
──本当に不死川さんはあの不死川の妹とは思えないくらい気遣いの人だな。
と、なんだか感心してくれたようで、好感度もUP!
作戦は大成功かもしれない。
その後、
──そうか…そういう可能性も……
と、鱗滝先輩は視線を下に向けて少し考え込んで、やがて顔をあげて視線を貞子に向ける。
そして
「俺は二人がつきあっているかどうかとかは聞いていないんだが、そういう可能性が皆無とも言えないだろうから、二人には君がそれを気にしていたから、互いに何か気になる事があるなら、二人の方で対処するようにと言っておく。
まあそれで何か起こるようなら俺も介入するから心配しないでいい」
と笑みを浮かべて言ってくれた。
結局その日はそれで終わり。
貞子は礼を言って、鱗滝先輩は待たせていた煉獄先輩の所へもどって行く。
本当に短い時間。
だけど有意義な時間だった。
重要なのは鱗滝先輩の警戒を解くことと、略奪の意志があるように思わせない事…そして鱗滝先輩の好感度を上げることである。
その3つの目標を完璧に遂行できたので、今回はこれで良しとする。
こういう小さな相談を何度も繰り返せば、そのうち二人きりで会える時間も増えてくるだろう。
そうなれば鱗滝先輩の彼女の座に手が届く日も近い。
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