彼女が彼に恋した時_12_幕間2

──あのさ…錆兎はあんま貞子ちゃんに近寄らない方がいいんじゃないかな…

貞子と炭治郎、カナヲを含む6人で貞子の今後の話し合いを終えて、小等部組を返したあと、今後の対応について中等部組で話し合っていた時、突然村田が言いにくそうに口を開いた。

(こいつ地味なくせに、なにげによく気づくなぁ…)
と、その発言に感心する宇髄。

一方で言われた錆兎は
「え?何故?別に個人的にあっているわけでもないし、連絡先すら交換してないし、会う時はお前や宇髄、それに炭治郎達と一緒なんだが?
それも参加しない方が良いということか?」
と言われた意味がわからないといった風にきょとんと首をかしげる。

なるほど、錆兎は勉強はできるし色々経験した事は吸収していける頭脳はあるようだが、未経験で法律のように見本や指針がないことに関しての察しはあまり良くないらしい。

杏寿郎もそういうところがあるし、そうしたデキる男達が持ち合わせていない部分を、この一見地味で優秀と言う感じもしない村田という幼馴染が、あるいは必要にかられてかもしれないが持ち合わせて、完璧にフォローしているのだろう。

錆兎の返答に村田は少し困った顔で、
「う~ん…そこまで避けるとそれはそれで問題になると思うんだけど…」
ととりあえず答えて、そのあとにどう説明したものかと考え込み、錆兎もそんな歯切れの悪い村田の言葉に少し困ったように眉を寄せた。

そんな二人を見て、宇髄は自分が間に入ることにする。

「えっとな。もう単刀直入に言うと、貞子は間違いなく鱗滝の事が好きになったんだわ。
そんなことはないとか言うなよ?
どう考えてもその手のことはお前さんよりも俺の方が経験豊富だし詳しいからな?
この派手派手でモテモテな天元様が言うんだから、そこは間違いない!」
と言うと、村田はその言い方に小さく噴き出して、錆兎の方は貞子が自分を好きだという推論を否定する前にシャットされて、また困ったように眉尻をさげた。
そうしてそのまま困惑した視線を村田に送ると、村田がうんうんと頷くのでため息をつく。

頭脳明晰スポーツ万能、顔だって整っていてスタイルもいい、このいわゆるイケメンは、何故か恋情に疎い。
それなりにモテてきているはずだろうに、何故かはわからないが自分に対する異性の好意にすさまじく鈍感だ。

宇髄は小学生どころか幼稚園児の頃からモテてきたので、自分に好意を持つ相手はなんとなくわかるし、接し方によるメリットデメリットもある程度わかっている。

だからこれまでこれと言ったトラブルもなかったわけなのだが、そんな宇髄から見ると錆兎のこの鈍さはある意味危険なレベルだと思う。

そう。
女子の中には憧れるだけではすまず、自分のものにするためには手段を選ばない輩だっているのだ。

錆兎自身が陥れられて責任を…と言われる可能性だってあるだろうし、彼女である義勇を追い落としにかかる女子だって絶対に出てくる。

…貞子は…どうだろうなぁ…
と宇髄は警戒していた。

彼女はまだ元々好きだった男に気持ちがあるような発言をしていたが、あれは嘘だと宇髄は思っている。
非常に不遇な身の上で頼れる相手の欲しい貞子は、相手に騙されていたとはいえ、貞子を拒絶しただけでなく、攻撃的な言葉を投げつけて来た相手を未だ好きだとは思えない。

少なくとも貞子は、守ってもらえないだけではなく、いつ敵に回って自分を傷つけてくるかわからないような男に思いを残す女子ではないだろう。

そこで協力者を欺いてまでまだ彼を好きだというのは何故かと考えた時、その理由はただ一つ。
他を好きだという事で本当に好きな相手…しかも好きだとバレたら周りから反対されるであろう相手への想いを隠すためだと思われる。

そんな相手がこのメンバーの中にいるとしたら、もう、彼女持ちの錆兎以外に他ならない。
そしてもし、単に好きになっただけで諦めるつもりなら、想いを口にしないだけで、嘘をついてまで隠そうとしないだろう。

そうなると…だ、これを放置すればなかなか厄介なことになる。

貞子の学校生活環境の回復に協力をするという立場上、あまりきっぱりと拒絶して離れるという事が難しいのもあるし、出来ればあまり親しいと感じられるような態度を取らず、精神的な距離を感じさせ続けた上で、貞子の関心が他の男子に向けられるのを待つ…それが最適だと宇髄は思った。

正直、面倒くせえなぁ…と思わないでもないのだが、毒を食らわば皿まで。
ここまで関わってしまったからにはもう仕方がない。

今回の諸々は本当は錆兎が後輩に頼んでいるので、中心は錆兎ということになるのだが、出来るだけ彼を表に出さないよう、自分が中心になって表に出て、錆兎は後輩とのやりとりだけ。
必要な時は自分を通して、宇髄が手が回らないあたりは村田を使う。

そんな風にしていくしかない。
そしてまあ救いと言えば救いだが、意外に自分自身が関わる恋情にはへっぽこな錆兎と違って、村田の方はそんなリスクや自分の役割をしっかり理解してくれているようなので、そこは助かっていた。


ただ、救いはそこだけで、よもや自分の彼氏が狙われていると理解していない義勇が貞子と会って錆兎情報を駄々漏らしにしていたり、しばらくは貞子のほうに気持ちが向いていて学年の方では大人しかった不死川が
『なんだかよぉ…鱗滝には貞子がずいぶん世話になってるみてえだし、なんならくっついて守ってくれんならいいんだけどなァ。
そうしたら冨岡は俺と付き合えば良いと思わねえかァ?』
などととんでもないことを言い始めたりと、宇髄にとっては頭が痛い状況が続いている日々である。

本当に派手派手で良い男な自分が唯一頼りにできる同志ともいえる立場に居るのが、村田のように地味な男というのが、色々終わっていると、宇髄はため息をつくのだった。









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