鱗滝君の後輩達の介入で真相が明らかになり貞子への誤解は解けたわけなのだが、事情が事情だけに、じゃあそれで解決というわけではない。
だから不安なのだろう。
貞子は最近、”不死川家の兄の犠牲者”として一部知られている義勇と仲良くすることで、兄と自分達は違うし、当事者だってそう認識してくれているのだと周りに見せたいようで、しゅっちゅう中等部へ義勇を訪ねてくるようになった。
まあ義勇にしてみたら、これまで自分が末っ子で特に幼馴染とかも居なくて年下の子に慕われるなんて経験はなかったし、ちょっとお姉さんぶれるのは楽しくて、貞子の訪問を受け入れている。
そこで、『あの不死川の妹なのに?』という声も一部ありはするが、義勇本人はそれこそ貞子がそう見て欲しいらしい、暴力父兄と貞子達弟妹は別人格だと思うし、不死川の悪行を貞子に被せるのはどうかとも思っていた。
不死川と関わりたくないからその弟妹とも関わらない…という点においても、貞子が居なくたって不死川はしつこく絡んできていたし、今はなんなら不死川が近寄ろうとしようものなら、貞子が『兄ちゃんが関わると私まで色々言われるんだからやめてっ。しばらくは距離をおいて大人しくしてて』と言ってくれるので、むしろ以前よりマシなくらいだ。
だから貞子と居るのは全然苦痛ではない。
貞子が前好きだと言っていた城山君にひどいことを言われてかなり傷ついたし、なんなら騙されたからと言っても亜優と付き合っている以上諦めないとと思っている…などと言う、相談とも愚痴とも言えないような恋バナをしてくるのも、これまで相談する側にしかなったことがなかった義勇には新鮮で、自分が相談に乗れたり愚痴を聞いてあげられるのも嬉しくて、ついつい聞いてしまう。
本当は甘露寺さんも一緒に先輩として相談にのってあげたいのだが、本人はとにかくとして、不死川をとことん信用していない伊黒君が不死川家に関わることは全てNGとしているため、参加できないでいる。
でも時折り義勇の口から貞子が言っていたことなどを聞いて、アドバイスをくれたりする毎日だ。
貞子自身はというと、不死川の妹とは思えないほど優しい気の付く子で、自分は恋を諦める方向で気持ちの整理をしている最中だというのに、義勇の鱗滝君に関する話も普通にニコニコと笑顔で聞いてくれる。
気づくと語っていて、あ、でも楽しい恋愛話なんかして良い状態の相手じゃないと慌てて口をつぐむ義勇に
『大丈夫ですよ。他の人のことでも幸せな話は気持ちが和みますから』
とにこやかに先を促してくれるので、ついつい話過ぎてしまう。
なんだかどちらが年上なのかわからない感じだが、貞子は兄が二人いるが女子としては一番上で弟妹の面倒をみることも多いということで、どこかお姉さん役が身についているのかもしれない。
義勇が鱗滝君の話をしても、
「そっか~。鱗滝先輩とはよくそういう場所でデートするんですね」
と相槌を打ってくれるだけではなく、
「じゃ、〇〇とかが好きなのかな?」
とか、貞子の側からも色々質問してくれたりして、話を広げてくれる。
家族である蔦子姉さん以外で義勇が恋バナをできる数少ない相手となった貞子といるのは、彼女には彼女の事情があるからであっても、正直楽しい。
本当なら同じく恋バナが出来るもう一人の相手、甘露寺さんとも一緒に3人で女子会を開きたいくらいだ。
これまで彼氏どころか友達もほぼいなかった義勇にとって、中等部に入ってからの友人関係はとても楽しく幸せなものだった。
だから貞子が思い知っていた、交友関係には裏も表もあって崩れる時はあっという間に崩れ去る…もっと言うなら、自分が友人と思って居る相手が実は自分に悪意を持って接していることもあるということを、考えてもみなかったのである。
0 件のコメント :
コメントを投稿