──わざとかどうかわからないけど…親友だと思ってた子が好きだった相手に私の悪口を…
本当は鱗滝先輩に話を聞いてもらいたかった。
だから泣きながらすがってみたのだけど、あっさり冨岡先輩とのデートを選ばれてしまった。
自分が今大変なことになっている…それを鱗滝先輩に伝えてもらって興味を持ってもらうことが大切だ。
もちろん、貞子自身、何が起こっているのかわからないまま居るのも嫌なので、そのあたりを調べてもらいたいというのもある。
警察とのやりとりはほぼ宇髄先輩に任せきりで、その間、村田さんがジュースを渡してくれたので、それを飲みながら事情を話す。
とりあえず大きな怪我もなく接触もしていないということなので、結局は飛び出した貞子も飛び出されたトラックの運転手さんも互いに厳重注意で終わったらしい。
そうして警察を出ると、今度は宇髄先輩が
──ちょっと込み入った話になるだろうから、特別な?
と、小中学生が行くような場所ではない、なんだか高級そうな喫茶店に連れて行ってくれた。
そして
──爺さんが経営してる店の一つだから、安心してくれ
と説明してくれる。
そこでまず事情を聞かれて冒頭のように言って、その後、一昨日の亜優とのLineから始まる一連を打ち明けた。
そして今日の亜優や城山君のやりとりまで話したところで、宇髄先輩が
──悪いけど…そのLineって見せてもらっていいか?
と言うので、貞子はスマホを取り出した。
そして気づく。
貞子は帰り道は電車に乗ることを考えてスマホは全てマナーモードにしているので気づかなかったが、なんと亜優からLineが入っている。
──何を言ってきたんだ?
と宇髄先輩に聞かれてLineを開くと、そこには
『貞ちゃんの言葉が悲しくてつい責めちゃったし避けちゃったけど、ずっと仲良くしてた貞ちゃんがそこまで思いつめているなら私が身を引く。
私、城山君とはお別れするから、貞ちゃんが付き合っていいよ』
と言う言葉。
その、わけのわからない今更な言葉に眉を寄せる貞子。
そんなに簡単に手放して良い程度なら、何故嘘をついてまで付き合ったりしたんだろう?
「…確かに…最初にそいつを好きだって言ってたのはお前さんで、この亜優って子はそれを聞いて応援するって立場だったんだよな?」
と、宇髄先輩が確認してくるのに頷くと、先輩は少し複雑な顔をした。
そしてスマホをポチポチやっている。
その間は村田さんが、
「とりあえずさ、貞子ちゃん、他に仲良しさんとか居る?
居なければ当座一緒に居て、何かあったら助けてくれる後輩を紹介するけど」
と聞いてくれた。
確かに…。
今の状況で味方が全く居ないのは辛い。
普通に友人は居るが、兄の時のことを思いだせば、もし亜優が城山君に言ったように貞子が亜優の彼氏を略奪しようとしたのだとか広めて回ったらかばってくれるとは思えない。
そう口にすれば、村田さんは
「うん、そうか。わかった」
と頷いて、
「事情を説明して亜優さんのいう事に惑わされないようにと言っておくね」
と請け負ってくれた。
鱗滝先輩や宇髄先輩みたいにカッコよくはないが良い人だなとは思う。
貞子が村田さんとそんなやり取りをしている間に、宇髄先輩の要件は終わったらしい。
すでにスマホを置いてこちらを見ている。
「あのな、錆兎がお前さんの家には連絡を入れておいてくれてる。
で、すごい騒ぎになったからみんな面白おかしく尾ひれをつけているが、単にお前さんが考え事をしていて信号を見逃したってことにしてあるから、合わせておいてくれ。
お前さんの兄貴達が暴走すると厄介だから」
そう言う宇髄先輩の言葉に貞子はびっくりした。
「…鱗滝先輩はデートじゃなかったんですか?」
と思わず聞くと、宇髄先輩は
「あ~、デートは本当だけどな。
どっちにしてもお前さんのことはお前さんの兄弟の耳には入るだろうし、兄貴達がまた暴れて弟妹が迷惑かけられてもなんだろ?
で、俺が奴かどっちかが連絡を~ってなったら、俺より奴の方が言いくるめるの上手そうだしな。
俺はお前さんの話を聞いて情報を集めて、奴は兄貴達に連絡ってことにしたんだ。
お前さんにしたらその亜優って子はムカつくだろうけどな、とりあえず理由と証拠がないまま兄貴達が殴ったら完全にこっちが悪になるからな。
伝手をたどって色々調べてみるから、もうちっと我慢してくれ」
とわしわしと頭を撫でてくれた。
なんというか…先輩達は本当に手際が良くてすごい。
同級生の中で綱渡りのような人間関係を築いている身としては安心感が半端なくて、貞子はなんだかホッとしてしまった。
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