──亜優っ!こっちっ!!
昨日…城山君との悪夢のようなやりとりが交わされた場所で、貞子は親友の亜優を待っていた。
貞子より少し遅れてその場に来た亜優は、何故か硬い表情をしている。
貞子が手を振っても振り返してくれることはなく、いつものように笑顔を向けてくれることもない。
ただ強張った…どこか怯えたような顔で
──話をしたかったんだっ
という貞子の言葉に
──これ以上何を?私に一体何を言うつもりなの?
と、一定の距離を保ったまま言った。
…え?…と思う。
てっきり城山君が何か誤解しているだけかと思ったのだけれど、亜優の様子もおかしい。
いや、むしろ亜優が何か誤解をしていて、それが城山君に伝わったという感じなのかもしれない。
思いもしなかった親友の反応に貞子が固まっていると、亜優は自身の胸元をぎゅっと握り締めながら、
「貞ちゃん…お友達だと思ってたのに…
私と付き合っているって知ってて城山君に告白するってLine送ってくるなんて思ってもみなかった…。
好きになっちゃうのは仕方ないけどっ…でもっ…でも、私の彼氏だから悪いって言う気持ちが少しでもあればっ…諦めるか、最低でも私に知られないようにってするよねっ…。
私は大切なお友達だと思ってたけど、貞ちゃんは違ったんだね…
せめてそっと距離を置こうと思ってたけど、それもさせてくれない…。
昨日からずっと何回も何回も電話をかけてこられて、怖くて寝れなかった…」
と、ありえないことを言いながらポロポロ涙を零す。
え?ええ???
貞子は混乱した。
「ちょっと待ってっ!!
ずっと城山君を好きだって言ってたのは私のほうじゃん!
亜優ちゃんも応援するって言ってくれてたじゃないっ!
なんでそういうことになってるのっ?!」
「貞ちゃんこそ、何言ってるの?!
ずっと好きだったって言ってた私に応援するって言ってくれたのは貞ちゃんだったじゃない!」
「え???」
何が起こっているのか全くわからない。
亜優はおかしくなってしまったんだろうか…
貞子が亜優に城山君のことを好きだという話をしたのは1回や2回じゃない。
何故それが亜優のこととして入れ替わっているのか、本当にわからなくて、
「亜優…ちょっと混乱してない?」
と、逆に心配になって手を伸ばそうとした時、
「亜優に手を出すなっ!!」
と、パン!とその手をはたかれた。
それは本棚の陰からでてきた城山君だった。
「…なんで、ここに城山君まで…?」
明らかに怒った顔の彼に昨日の出来事が蘇って、貞子は青ざめながらも聞く。
それに彼は
「すぐ暴力を振るう家の人間が亜優に対して腹を立てている状況なのに、一人で人目のない場所に行かせられるわけないだろうっ!」
と激昂して言った。
ああ…結局兄達の評価がこんな時でも…と思うと泣けてきたが、それでも貞子は
「…っ…ちがっ……事情、聞きたかっただけっ…。
亜優は親友だからっ…何か誤解があるかもって…っ……」
と訴えるが、城山君は亜優にスマホを出させて
「俺に告白するっていうのは亜優のLineに残ってる。
それだけじゃない。
俺が昨日拒絶をしたのを亜優にぶつけようとしたんだろう?
亜優にかけてきたすごい数の電話の着信は、この通り亜優のスマホの履歴に残ってるからっ!
亜優とつきあっていようといまいと、俺は絶対にお前みたいな性格の悪い女子と付き合うつもりはないっ!
それに文句があるなら亜優に言わないで俺に言ってこいっ!!」
と水戸黄門の印籠のように、昨日事情を聞きたくて貞子がかけ続けた電話の着信履歴が残る亜優のスマホをかざして言う。
まるで悪を成敗する黄門様のように……
確かに…残っている記録を見ればそう思われても仕方ないのかもしれない。
そして…こうなることを予測していたわけではないのだろうが。実は貞子が城山君について語る時は、亜優が
『うち、定期的に親がスマホを確認することになってるから込み入った話は電話でね』
と言って電話でのみ話していたので、Lineなどあとで見返せる形で残っていない。
それに気づいた貞子はなすすべもない現状に愕然とした。
そうして反応できない貞子に、全てを認めたと判断したのだろう。
「剣道部の奴らと先生達が言うから皆お前と付き合ってるし、避けたら逆に色々言われるかもだけど、俺は亜優を守るからっ!
あまりにひどいようならこれを見せて釈明をするっ!
そうすれば兄達のせいじゃなく、お前が親しい友達のふりをして陰で亜優に嫌がらせをするような奴だって周り中に広まるからなっ。
でも亜優は優しいから公けで糾弾まではしたくないって言ってるから、亜優に二度とおかしなちょっかいかけないって言うなら、目をつぶってやるっ」
城山君はそう言って亜優を守るようにその肩を抱くと離れて行った。
──大丈夫か?食欲ないかもしれないけど、一緒に飯を食おう?
と、亜優に貞子に対するのとは打って変わった優しい声をかけながら…
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