翌日…貞子が登校すると、同級生たちの半数くらいはすでに教室にいた。
その中には亜優もいる。
が、どことなく元気がないようで、貞子とは元々あまり交流のなかったあたりの子と何か込み入ったような話をしているようなので、待つ事にした。
そうだとしたら、そんな時に浮かれて告白の話なんかして悪かったな、と、察しの悪い自分を恥じる。
本来なら亜優は何か自分に相談したかったのかもしれないな。
落ち着いたら聞いてみようか…
などと考えている間に朝のホームルームの時間になってしまった。
その後もなんのかんので亜優の周りには他の同級生が居て、込み入った話をできるような状況ではなかったので、貞子は亜優と話すのは諦めて、城山君に放課後少しだけ時間を欲しいと頼んでアポイントを取った。
そして放課後…
2人で話すにしても本当に密室は色々問題が起きても嫌だという城山君の指定で、図書室の片隅で話をすることに。
まあ確かに放課後の図書室なんてほぼ誰もいない、カウンターの所に図書委員の当番が所在投げに座って漫画を読んでいるような場所だから、二人きりの密室を避けて、でも他人に聞かれない話をするというには最適な場所だ。
すごく目立って人気者とかではないが、こういう空気を読める頭の良さと言うのが好きだな、と、貞子は再認識をする。
そうして二人で図書室の前方にあるカウンターから遠い一番後方の窓際のあたりへ。
ここなら普通に小声で話している分には聞こえない。
なんならたくさん並ぶ大きな本棚に遮られて、姿さえ見られない。
時間をずらして来れば、二人が待ち合わせをしていることすら知られないで済む。
ということで、貞子は先に来て、少し遅れてくる予定の城山君を待った。
待っている間、すごくドキドキする。
…まあ…あちらからアピールされていたとかもないし、受け入れてもらえる可能性も受け入れてもらえない可能性も当然考えていた。
だが貞子から少し遅れて待ち合わせ場所に来た城山君はどこか固い表情をしている。
何故?
もしかして兄達のことがあるから、何か暴力とか暴言とか、乱暴な何かのために呼び出されたと思われているんだろうか…
とりあえず誤解があるなら解こう。
と、その前に、
「来てくれてありがとう。
急に呼び出してごめんね」
と礼を詫びの言葉を述べると、城山君の口から出てきた言葉は、
「…謝る相手が違うんじゃないかな?」
で、貞子は驚いてしまった。
「え?…え?何?何か誤解されてる??」
本当にわけがわからず目を丸くする貞子を前に、城山君は冷ややかな声で、しかもその声音よりもよほど心が凍り付くような言葉を投げつけてくる。
「亜優に聞いたんだけど…不死川が俺に告白しようとしてるって。
親友の彼氏だってわかってる相手に告白ってさすがにありえないと思うんだけど?」
その言葉があまりに理解の範疇を超えていて、すぐには頭に入ってこなかった。
誰が?誰とつきあっているって?
「お兄さんのことで不死川がみんなに避けられていた時にも自分も一緒に避けられるかもしれないのにぎりぎりまでお前に寄り添おうとしてた亜優に対してあまりにひどくないか?
昨日、お前から俺に告白するって宣言するLineが来たって、親友だと思ってできる限り寄り添ってきたのにまさか自分の彼氏の略奪宣言されるなんてって、亜優から泣きながら電話がきたんだ。
こっそりでもありえないけど、略奪宣言ってどれだけ性格悪いんだよっ!
悪いけど、お兄さんのことが原因じゃなく、不死川自身の性格の悪さが理由で、俺は不死川に近寄りたくない。
もうクラスの人間として必要なこと以外で俺には近づかないでくれ」
城山君は怒った顔でそう言うと、
「ちょ、ちょっと待ってっ!!」
と貞子が誤解を解く間を与えず、さっさと帰ってしまった。
彼が見えなくなって、図書室から出て行っても、貞子は動けない。
頭の中が真っ白になった。
唯一貞子がずっと城山君を好きだと知っていた亜優が、いつのまにか城山君とつきあっていたというのもすさまじいショックだったけれど、亜優が貞子が城山君と自分が付き合っていると知っていて城山君を略奪すると言ったと言っていたということは、もう理解しがたいほどショックだった。
でももしかして、城山君が何か誤解しているのかもしれない。
そう思って亜優に『話がしたいんだけど…』とLineを送る。
が、既読がついても返答はない。
電話をしてみたが出ない。
仕方なしにいったん帰宅。
その後も時間を置いて何度も電話をしたがやっぱり出てくれない。
そうして電話をかけ続けて寝るぎりぎり、
『明日、昼休みに図書室の後ろの方の窓際で』
とだけ返ってきた。
今日、城山君と待ち合わせして罵られたその場所は貞子にとってはトラウマになりかけている場所ではあるが、背に腹は代えられない。
『わかった』
とだけ返して、スマホを放り出す。
本当はすぐにでも話を聞きたい。
でも選択権は貞子にはないのだろう。
一体何が起こっているのだろう…
不安と悲しさで貞子は眠れないまま朝を迎えた。
翌朝…ドキドキしながら登校したが、教室に入ると亜優の周りにはやっぱり何人かの同級生女子が他から遮るように集まっていて、その中をかき分けて話を聞けるような雰囲気ではなかった。
これはもう亜優の方から指定してきた昼休みを待つしかないのだろう。
貞子は諦めて自分の席に着くと教科書やノートを出して授業の準備をすることにした。
自分で言うのもなんだが、貞子は真面目な方でいつも授業は真剣に聞いているし、ノートもきちんと取っている。
だけど今日は習慣で機械的にノートだけはとるものの、内容はさっぱり頭の中に入ってこない。
気を抜くと涙が出そうになる。
そうしてしばらくは堪えていたがそれでもポトリ…とノートが濡れて書いた字がにじんだ。
気づかれないように慌てて涙を拭くが、隣の席の舞には気づかれたようで、なんだか痛まし気な目で見られた気がする。
そこでちょっと気恥しいというように苦笑して見せると、あっちも苦笑して見せて、すぐまた前方の先生に視線を移した。
やがてようやく4時間目が終わって昼休みに…
待ちわびていたはずなのだが、いざその時間になってみるとなんだか怖い。
どんな誤解が生じているのかわからないが、亜優と話をして城山君に誤解をされていることを説明して…そうしたら亜優はきっと誤解を解いてくれるはずだ。
そう思っているのに、なんだかすごく怖いのだ。
それでもここで逃げても何も解決しない。
そう思って、貞子は意を決して待ち合わせに指定された図書室へと足を向けたのだった。
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