彼女が彼に恋した時_11_幕間1

──おはよう、貞ちゃん
──不死川、おはよ~!
──不死川さん、おはよう

貞子は最近毎日ドキドキしながら学校に行くが、先日まで避けられていたのが嘘のように、同級生たちが声をかけてくる。

それに貞子も
──おはよ~!
と笑顔で返しつつ、少し気まずい気持ちが残りながらも、同級生達と教室まで雑談しながら歩いた。


先日宇髄先輩が話し合いに呼んでくれた鱗滝先輩は驚くほど仕事が早くて、あの話し合いの翌日には数人の同級生がおずおずというかおそるおそるというか、多少の不自然さはあっても以前のように声をかけてきてくれるようになり、1週間ほど経った今ではほぼ全員すっかり元通りだ。

何が起こったのだろう…と、翌日に気になって聞いてみると、どうやら各学年にいる鱗滝先輩の後輩たちが何もしていない貞子達弟妹に対する皆の態度は宜しくない事、貞子達と揉めた時に怖いというなら、自分達に言って来てくれればきちんと対処するという事を、それぞれが親しい人間から順に広めてくれたらしい。

その後輩達のほとんどは人気者の鱗滝先輩と同様に周りの生徒達に対しての影響力が強い子揃いだったので、そういう子がそんな感じで注意喚起をしてくれたら、むしろ距離を取ったり悪く言ったりしている子達の方が肩身が狭いような雰囲気になってきた。

それと同時にそれまでいくら訴えてもなしのつぶて状態だった先生達がホームルームなどでイジメや無視はいけないこと、そして学園としてはあまりに目が余る場合には逆に停学や退学などもありうることなどを注意するようになったのも大きい。

そのうえで部活をやっている体育館から自身の教室の中等部まで小等部を通っていくことになることもあり、鱗滝先輩がその通り道にわざわざ貞子達弟妹の教室を順に覗いて、楽しく過ごせてるか?などと声をかけてくれる。

そしてそんな風に人気者の先輩と交流があるということで、若干の下心を持って貞子達に話しかけてくる女子も少なくはない。

こうして日常+αの生活が戻ってきて数日。
弟妹達に笑顔も増えて、姉の貞子としてもホッと一息つく。

そして弟妹はもう大丈夫、と、安心したところで、貞子もそろそろ自分自身の諸々を考えることができるようになった。


城山俊君…それが貞子がずっと好きだった相手である。

1年の時からずっと同じクラスで、”しなずがわ”と”しろやま”で苗字の最初が互いに”し”で始まるため、新学年に進級してすぐの名前順の席ではたいてい隣だった。

彼は運動はそこまで目立ってできるわけではなかったけれど頭はとても良くて、貞子がわからない所があって聞くと、とてもわかりやすく教えてくれる。

(…告白…したいな…)

ずっと思いは秘めてきて、唯一親友だった亜優にだけは打ち明けていた。
いつの日か想いが叶ったら嬉しいなと思わないでもないのだが、好きになったのが1年の入学の時なので、さすがに告白とか付き合うとかいうところまでは考えていなくて、2年3年4年5年と学年を経てもなまじ想っていた期間が長すぎて、きっかけがつかめないまま今に至る。

でも今回、錯覚なのはわかるがクラスのみんなと同様に距離を取られてから元に戻ったことで、いったん距離があった分、急に距離が近くなった気がして、このままもっと距離を縮められるのでは?と思ってしまった。

話し合いの時に長兄が付きまとっている女性である冨岡先輩が彼氏である鱗滝先輩と仲良く寄り添っていたのを見て、すごく羨ましく思っていたのも一因ではある。

もし城山君とつきあえたなら、あんな風に腕を組んで、あんな風に…と、想像している間が、今にして思えば一番楽しい時間だったのかもしれない。

決意したその日、貞子は亜優に、
『明日、城山君に告白しようと思う!』とLineを送った。

すると既読から珍しくしばらく返事がなくて、やがて返ってきた返信は
『どうして?』
というもので、何がどうして?と不思議に思ったものの、確かにずっと好きだと言っていたのに告白という話をしなかったから、何故今のタイミング?と思われたのだろう。

だから
『兄ちゃんについて相談した時にね、冨岡先輩の彼氏の鱗滝先輩も一緒に来てたんだけど、二人なんか仲良くて楽しそうでいいなぁって思って』
と説明したのだが、それに既読はつくものの返事はなかった。

いつもすぐ返事をくれる亜優だから不思議には思ったが、まあ忙しい時もあるのだろう。
色々告白について話もしたかったが仕方ない。

貞子は亜優と話すのは諦めて、年子の妹の寿美にその話をするために、二段ベッドの上に登って声をかけた。







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