彼女が彼に恋した時_10_後編

──ありえんなっ!被害者に加害者の窮状を救うように頼むなんて宇髄も頭がわいている。

翌日…学校で昼休みに不死川の妹に会ったこと、そして今鱗滝君と宇髄君がお互いに色々約束事をして動いていることを話したら、伊黒君が激怒した。

聞くところによると、彼も小等部時代、一時イジメを受けていた経験があり、イジメ加害者の人権は一切配慮すべきではないという持論らしい。
だから、義勇が甘露寺さんと仲が良いということもあるが、不死川に相変わらず付きまとわれている間、かなり寄り添って助けてくれたのだろう。

甘露寺さんはと言うと、あまり過激な性格ではないが、そういう伊黒君の気持ちもわかっているので少し困った顔で黙っている。

そんな中で、不死川の弟に自身の弟が怪我をさせられて大激怒した煉獄君は、しかしさすが人格者というか、感情的な人のようで意外に冷静だったようで、

「いや!窮状を訴えてきたのは不死川の妹であって、不死川ではないだろう?!」
と、相変わらずどでかい声で訂正していた。

まあそれはそうだ。

義勇もさすがにいくら鱗滝君が関わると言ったとしても、それが不死川自身の窮状に対してだったら全力で止めていた。
もし今までの行動で不死川が何か困ったとしてもそれは自業自得というものである。

しかし伊黒君からすると加害者の家族と言う時点でNGだったらしい。

その煉獄君の指摘に

「何を言う!加害者の関係者だろう。
そもそもが一方的な被害者だった冨岡の時はスルーしていたくせに、加害者の家族が困っているからと言って乗り出して来るのがおかしい!」
と眉をつりあげた。

それに今度はニコイチの片割れ、鱗滝君が苦笑しつつ

「いや、宇髄は普通に善良な方だと思うぞ?
義勇の時にも自分の前で不死川が暴言や暴力を振るっていた時には注意していたらしいしな。
不死川の妹の時には全面的に介入して義勇の時は目についた時だけだったというのは、単に前者は宇髄に直接こういう風に解決してもらえないだろうかと相談されたからで、義勇は宇髄に助けてくれと直接言ったことはないからだろう。
たらればになるが、恐らく小等部時代の義勇が宇髄にこういう風に助けてくれと相談と提案をしていたなら、その通りにはしてくれたと思う。
すごく親しい友人であるとか、それこそ恋人であるとかではない、単なる一人の同級生にそれ以上のことを求めるのは現実的ではないな」
とフォローをいれる。

鱗滝君にまでそう言われたものの、伊黒君はまだ納得できなかったらしい。

「…しかし…錆兎、お前は親しいどころか誰のこともまだ知らない入学式ですでに介入していただろう」
と言う。

それにも鱗滝君は苦笑した。

「あ~…俺はな。
武術の師範でもある爺さんが厳しくて、余裕がある限り困っている相手に手を差し伸べろと言われ続けて育っているから。
だから俺は参考にはならない。
そうだな…例えば杏寿郎だってすごく善良で余裕もある人間だが、やはり誰かに手を差し伸べるのは自分の目の前で起きている事象に関してか、自分に対して助けを求められた時のみで、常に人助けをするためのアンテナを張り巡らせて、親しくもなく状況もはっきりしない相手のことに頼まれもしないのに首を突っ込んだりはしないだろう?
そういうことだ」

そしてそう言ったあとに、しかしまだ不満げな顔の伊黒君に

「まああれだ。
宇髄の思惑が何かあったとしても、今回の呼び出しはこちらにとってもメリットの方が大きかったしな。
現状、不死川の態度が変わらない以上、理由は俺達とは違ったとしても、不死川を止めたいという件については一致している、しかも不死川をよく知る妹と連携をとるのは良い事だと思った。
義勇が嫌なら俺だけでも行って、事態を良い方向に進められる何かを引き出して来ようと思っていたし。
もちろん話した結果、相手が義勇に対して害を与えると分かれば、容赦なく叩き潰すだけだが、会ってみないと利になるか害になるかわからないだろう?」
と、さきほどまでとは少し雰囲気の違う、圧のある笑みを浮かべて言う。

これまであまりこういう迫力のある笑みを浮かべる鱗滝君を見たことはなかったが、これはこれでめちゃくちゃカッコいい。
もう、どういう表情をしていてもカッコよすぎて、心臓がどきどきしてしまう。

そして伊黒君もいつもと違う鱗滝君の表情にちょっと驚いたようで
「…お前の口から『容赦なく叩き潰す』という言葉が出るとは思わなかった」
と目を丸くして言う。

それに鱗滝君は今度は満面の笑みで
「そりゃあ…敵は作らないに越したことはない。
俺がずっと義勇と居るつもりである以上、俺の悪評は義勇の身の安全に影響する可能性があるからな。
だが、直接的に義勇に被害が及ぶのに動かないというのは本末転倒だろう?
俺は義勇を守るのに必要なら、別に世界を敵に回すくらいはどうってことないと思っているぞ」
なんて言ってくれてしまうので、義勇は思わず真っ赤になってしまった。

ああ、カッコいい。
義勇の最愛の彼氏は本当に世界一カッコよくて素敵な男の子なのである。





0 件のコメント :

コメントを投稿