彼女が彼に恋した時_10_中編

そしていつものマック。
義勇が鱗滝君と一緒に店に入ると、宇髄君はすでに来ていた。

その宇髄君の隣には女の子。
その子が不死川の妹なのだろう。
兄に似ず、クリっとした目の可愛らしい顔立ちをしている

…不死川に似ていれば良かったのに……
と、彼女を見て思ったのは絶対にないしょだ。

自分でもいじわるすぎると思う。

でも義勇にしてみれば不死川にさんざん意地悪をされてつきまとわれて、その上その妹に最愛の鱗滝君をとられるとか、さすがにやめてほしい。

とにかく、不死川妹と鱗滝君を近づかせない。
そのために自分も同席をしてよかったと心から思う。

なのに、呼び出したのは自分だから…とどうやらおごってくれるつもりらしい宇髄君に注文を聞かれて遠慮する不死川妹に、優しい鱗滝君は遠慮することはないという主旨のフォローをいれてあげている。

やめて…確かに現状可哀そうな子かもしれないし、鱗滝君もそう思っているのかもしれないけど、それでなくても世界で一番素敵な男子にそんなに優しくされて、相手が鱗滝君を好きになって迫ってきたら困るからっ!!…と、義勇は焦った。

相手があの不死川の妹だと思うとどうしても用心してしまう。
それでも気の毒な境遇の相手にそんなことを思ってしまうのは良くないし、自分がすごく意地悪で嫌な女の子に思えてしまう気持ちもあって、そんな葛藤を胸に抱えてどんな顔をして良いかわからず、結局無表情に…。

そして通常運転で万人に親切な鱗滝君にハラハラしながら、話の内容なんて半分くらいしか頭に入ってこないまま、せめてもと鱗滝君の腕をしっかりとつかんでいた。

義勇が心配した通り、鱗滝君は可哀そうな子に優しい。
それどころか泣き出してしまった不死川妹にハンカチを差し出そうとするので、義勇は慌ててそれを遮って自分のハンカチを彼女に渡した。

だって鱗滝君に関して、何か残る物を他人に渡して欲しくはないし、彼女だってもしかしたら鱗滝君からハンカチをもらったら義勇のように綺麗に洗って額縁に入れて拝んでしまうかもしれないじゃないか。
そんなのは絶対に嫌だ。

そう思うのは義勇的には自然な事だったのだが、それでも傷ついて泣いている子に対してその行動はちょっと意地悪だったかもしれない…と心ひそかに反省した。

…が、いつでもなんでも知っているように見える鱗滝君なのに、義勇のそんな気持ちだけはわかっていないらしい。

宇髄君と不死川の妹と別れた後、二人でクレープを食べている時に
「さんざんイジメられて嫌な思いをさせられた不死川の妹に対してでも、相手が傷ついていれば咄嗟にハンカチを渡してやれる義勇は優しいな」
と相変わらず生クリームと格闘している鱗滝君にそんな風に言われて、意地悪な女の子と思われていなくて良かった…と内心ほっとしつつ、クレープから零れ落ちそうになっている苺に集中することにしたのである。

まあ…義勇が心配するたび鱗滝君は笑って
「義勇が思っているほど俺はモテるわけじゃないから大丈夫。
他が寄ってくるのは…たぶん助けの手が必要な状態で、目の前に色々出来て手伝ってもらえる人間が居るから…というところか。
自分で言うのも便利でお役立ちなクラスメートなんだと思う」
と言うのは、本当に女子の気持ちがわかっていないと思うが、不死川の妹に関しては最後の方で同級生で好きな男子が居てという話が出たので、心配はないらしい。

そうなると我ながら現金なもので、たとえ相手が不死川の妹でも女の子だし、義勇とは遠い場所で想いが叶って幸せになれば良いなとそんな気持ちになって来て、思い切り応援の言葉をかけてしまった。

恋する女の子は相手が自分の彼氏じゃない限り応援したくなってしまうのは、いつでも恋する女の子にエールを送る甘露寺さんの影響されたのかもしれない。








0 件のコメント :

コメントを投稿