鱗滝君が家に来てくれてからも、さらに彼との関係は良好でより距離が近くなって、そちらはとても順調だった。
…が、不死川の方は相変わらずだ。
最近は義勇が伊黒君や甘露寺さんと登校していると、時間を合わせて一緒に来ようとして、その都度伊黒君が宇髄君を呼んで回収させるということが数回続いたあとは、初めからもう宇髄君が不死川について間に入って、絡まれないようにはしてくれる。
が、教室内では宇髄君は別クラスで分かれるので、堂々としつこい。
甘露寺さんや伊黒君、それに村田君もかばってくれるのもあって、煩い以外に物理的な実害はないのだけれど…。
義勇達が小等部だった頃には長患いで現場を離れていた理事長が回復して戻って以来、不死川の弟の件でもわかるように暴力には厳しくなってきているので、反射的に手が出そうになる不死川に村田君がその都度、
「暴力はだめでしょ~!
不死川だって停学や退学になりたくはないでしょ?
言いたいことがあるなら口で言おうね?」
と注意してくれると、なんとか収まっている。
だから完全に…とは言わないまでも、まあまあ平和な日が続いていた
そんな中で義勇が不死川より気になるのは、鱗滝君を好きな女子達である。
同学年の中では隣のクラスの宇髄君、義勇のクラスの煉獄君と鱗滝君の3人の男子が圧倒的に女子に人気があった。
その中では鱗滝君以外は特に決まった彼女とかも居ないので、鱗滝君が義勇と付き合ってくれることになってからは多くの女子が他の二人に向かったが、それでも飽くまで鱗滝君が良いということなのだろう、あわよくば…と近づいてくる女子も居る。
仕方ない。
これは素敵な男子を彼にした時点で仕方のない事だと思いはするものの、女子が親し気に鱗滝君に声をかけてくると、義勇は気が気ではなくなってしまう。
もちろん鱗滝君はきちんとした人間なので、彼女が居て他の女子に…と言うようなことはしないし、ちゃんと距離感は大切にしてくれているようではあるが、なにしろ親切なので相手に勘違いさせかねないと義勇は思っていた。
そもそもが、義勇自身がその鱗滝君の親切心から距離が近くなって付き合ってもらえたようなものだ。
義勇が不死川に虐められている可哀そうに見える女子じゃなかったら、もしかしたら今の関係はなかったかもしれない。
そう思うと、当時の自分よりももっと可哀そうな女子が現れたらあるいは…と、少し心配になってしまうのである。
それでも鱗滝君に近づいてくるのはたいてい、彼女が居ても我こそはっ!と思うくらいには元気な女子ばかりなので、その点については少しホッとはしていた。
が、恐れていたことがとうとう起こる。
家族の不始末でクラス中から無視や嫌がらせを受けているという、今の義勇よりも数段可哀そうな女子と鱗滝君が接触することになったのだ。
その女子とは…なんと不死川の妹である。
義勇がそれを知ったのはとある夜に鱗滝君からかかってきた1本の電話だった。
その電話の直前、鱗滝君の所に宇髄君から電話がかかってきたそうだ。
その宇髄君も実はそのすぐ前に不死川の妹から電話がきたらしい。
いわく…不死川が義勇につきまとっていることをからかわれた不死川弟が同級生女子を殴ろうとして止めに入った同級生男子…煉獄君の弟さんを殴って怪我をさせたことで、不死川の他の弟妹が、あのみっともない&危険な兄達の弟妹と仲間外れにされたり嫌がらせをされたりしているとのことだ。
で、それで何故電話かと言うと、まず妹が宇髄君に、とにかく根本的な原因を取り除くために不死川が義勇につきまとうのを止めさせたいが、自分が言っても不死川は聞かないから、もういっそ義勇の方にわずかな希望も打ち砕くくらいはっきり振ってやって欲しいという依頼をしてきたらしい。
そこで宇髄君ははっきりきっぱり、なんなら本人だけじゃなく本人の周りからも言っているが聞かないのだということを説明した上で、義勇に連絡を取ってみると言って切って、まずは義勇の連絡先も知らないので鱗滝君にかけてきたということだ。
「まあ不死川を大人しくさせたいというのはあちらもこっちも目指すところは同じだからな。
協力できるならした方がとは思うんだ」
と言う鱗滝君の言葉はもっともである。
少なくとも不死川の身内が不死川を止めたいというなら、悪い話ではない。
「それでな、俺は会ってこようかと思ってるんだが…」
と間に入る気満々の鱗滝君だけれど、相手は女子だ。
しかも兄のことで無関係な自分達がイジメられているという可哀そうな女子である。
「私も行く!
だって私にって話がきてるんでしょ?!」
と言ったのは、当然不死川の妹を救いたいとかそんなことからではない。
信用していないわけではないが、やっぱり自分が居ない所で鱗滝君とそんな女子が話をするのが嫌だからだ。
義勇は小等部に入った頃からずっと耐えることが多くて慣れてしまったところはあるし、他のことなら他人に譲ったり我慢することになっても諦められるが、鱗滝君だけはダメだ。
義勇が唯一譲れない一点なのである。
でもなんでも理解してくれている鱗滝君は、義勇のそんな気持ちにだけは気づかない。
「そっか。本当は義勇も不死川関連は極力関わりたくないだろうし、俺の所で断って関わらないという選択肢もあったんだが、現状維持よりは協力して努力してみた方が良いんじゃないかと思って、義勇まで話を通してしまったんだ。
負担だったらごめんな?
まあ相手は女子だし、暴言吐いてきたりとかはないと思うが、もし何かあっても俺が間に入って守るようにするから」
と、謝ってくる。
それを聞いて、むしろ相手が暴言を吐いて鱗滝君の心証が悪くなれば安心なんだけど…なんて嫌なことを思ってしまって、すぐすごく自己嫌悪に陥った義勇の心情になんて本当に気づいていないのである。
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