彼女が彼に恋した時_9_幕間_I Love妹!4

それからも義勇と鱗滝君の距離は順調に縮まって、それと同時に彼は不死川から義勇を守ってくれるようになった。

義勇にプレッシャーを与えては可哀そうなので義勇が話したいことを聞くだけにとどめていたが、義勇の口から大人しい彼女にしては随分と興奮した感じで『鱗滝君とね、お付き合いできることになったのっ』と言う言葉が聞けた時には、内心ガッツポーズを決めながら、義勇の喜びに心から寄り添って一晩一緒にはしゃいだ。

きっかけは最近は形を変えて自分は義勇の事が好きなのだという割に相変わらず嫌がらせのようなことしかしない不死川に義勇がすっかり参ってしまっているのをきいて、それなら不死川避けに自分と付き合わないか?という話になったのだとのこと。

しかもそのあと、自分が義勇に好意を持っているということが前提で、話の流れで先に不死川の件を出してしまってごめんと、正義感や仕方なくではないのだと説明することで、義勇を気遣ってくれたというあたりが素晴らしいと思う。

いつも義勇のおっとりとした性格だとか言葉遣いや字の綺麗さ、もちろん容姿や気遣いの細やかさなどについて褒めてくれているようだし、ありえないことに不死川が義勇をブス扱いした時も、義勇の顔立ちが整っていることを非常に客観的に説明して論破してくれたりと、優しくかばってくれているとのことで、蔦子は慌てて義勇を転校させないで良かったと心から思った。

母がよく聞いていた昔の歌手の流行り歌で『傷ついた日々は彼に出会うための、運命が用意してくれた大切なレッスン』などと言う歌詞があったが、まさに今回の諸々はそれなんじゃないかと思う。

あの悪ガキに嫌がらせをされていた日々と言うのは、今回、こんなに素敵な王子様に救い出してもらうきっかけのためにあったんじゃないだろうか…。

女子校育ちで少し少女趣味なところのある蔦子は、まるで本当の少女漫画のような展開にうっとりする。

それでも…少しは心配もある。
彼が義勇をからかっているとまではいかないものの、同じ男子同士でやりとりをするうちに不死川に影響されたりはしないだろうか。
家族としては当然なのだが、過去に学校に苦情を言いに行ったりしたことに対して、おおげさだと引かれたりはしないだろうか…。

義勇がとても幸せを感じているがゆえに、それが壊れるのが怖い。
その要因になるものは出来る限り排除したい。

出来れば彼と直接話して、彼が義勇を過保護と感じているのならば、それは自分が勝手に構っているだけで義勇のせいではないし、気になるようなら過干渉にならないように気を付けるからと言いたい。

その思考自体がすでに過保護なのかもしれないという考えは蔦子の脳内にはない。

可愛い妹の…義勇のためならなんでもしてやりたい…
産まれたての赤ん坊の義勇を見た瞬間に思ったその気持ちは、蔦子は今でもまったく欠けることなく持ち続けているのだった。


鱗滝君に会ってみたい。
そう伝えた時、義勇は心持ち複雑な顔をしたように見える。

「大丈夫よ。変なことは言わないから。
会ってみたいだけ」
と言う言葉自体が不安を煽るのだという考えも蔦子にはない。

それでも蔦子が妹を愛するように、自分の方も蔦子を深く愛してくれている妹は
「…うん…聞いてみるね」
と、彼に伝えることを了承してくれた。

しかしその日、大学で親友にその話をしたら、
「…蔦子…それ、重い。
付き合いたてでまだ深くもない仲でいきなり家族に会わせたいとか、重すぎて引くんじゃない?彼…」
と呆れられたので、途端に不安になる。

そうか…そうかもしれない。
付き合うと言ってもまだ中学生だし、放課後デートくらいで、休日に会う事すらしていない状況で、いきなり家族が会いたいとか、圧が凄すぎだと思われるかも…

そう思えば、義勇との仲がむしろそれで微妙になったらどうしようかと心配になった。
もし義勇がまだ彼に話してなければ…あるいはまだ具体的に話が進んでないようなら、ちょっとどんな子か見てみたかっただけで、別に絶対に会わせなければダメと言うわけではないのだと、訂正しよう。
うん、訂正するわっ!

そんなことを考えていると、あっという間に講義が終わって、蔦子は急いで帰宅すると義勇の帰宅を待った。

しかしそれから少しして帰ってきた妹は、パタパタと軽い足取りでリビングに駆け込んで、
「母さん、姉さんもっ!ね、今度の日曜日、錆兎にうちに来てもらって大丈夫?!」
と弾んだ声で聞いてきた。

「ええ、大丈夫よ。
お昼用意したほうがいいかしら?」
「ううん。2時頃はどう?って話になってるから」
「そう、じゃあその時間ってことで準備するわね」
と、にこにこと応じる母。

そこで母親の了承は取れたとばかりに、義勇は今度は蔦子に視線を向けてくる。

「え、ええ。私は大丈夫よ。
えっと…鱗滝君…会いたいって話をした時、何か言ってた?」
友人の指摘を思い出して蔦子はドキドキしながら聞いたのだが、義勇から返ってきた答えは
「うん!普通に家族なら私が付き合ってる相手がちゃんとした人間か気になるだろうし、むしろ一度携帯じゃなくてうちの家の電話の方に電話して挨拶するべきだったのに、気づかなくてごめんって言われたっ。
で、鱗滝君の家でも外でもうちでもいいってことだったから、言いだしたのはうちだしうちに来てもらうことにしたのっ」
で、蔦子は、おお~~!!!と感嘆の声をあげるところだった。

素晴らしい!なんて素晴らしい男の子なんだろう!

産屋敷学園は名門校と言われるだけあってお金持ちの子弟が多いが、不死川の家のように金だけある成金も少なくはない。
そんな中で、これまでの対応といい、今の言葉といい、鱗滝君は間違いなく、きちんとしたお家のお育ちの良いお子さんなのだろう。
そんな素敵な男の子と義勇がご縁が出来たことを、蔦子は神様に感謝した。








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