冨岡蔦子は妹が大好きだ。
妹は本当に本当に本当に可愛い。
世に言う赤ちゃん返りをするどころか、お母さん進化を遂げて、この子のためならなんでも出来る!!と思った気持ちはそれから12年経った今でも変わらない。
可愛い可愛い妹、義勇。
蔦子的にはこんなに可愛らしい女の子なんだからもっと可愛らしい名前をと思ったのだが、両親は何故か次は男の子だと思っていたらしく、画数なども調べまくってその名前を考えていたため、まあしっかりとした強い子に育ってくれればいいだろうと用意していた名前をそのまま名付けたのだが、義勇ほど名は体を表さない子もいない。
蔦子とは年が離れていたため両親も久々の育児を楽しんでいたし、誰よりも蔦子が小さなママとなって世話を焼きまくったので、義勇は普通の子よりもだいぶおっとりとした子に育っていった。
漆黒の髪に西洋人だった母方の曾祖母ゆずりの綺麗な青い目。
肌も真っ白でとてもとても可愛らしい義勇は、外見も性格も可愛いものが大好きな蔦子の気持ちを鷲掴みにする勢いだったが、両親はそんな末っ子のおっとりさ加減を心配したようである。
蔦子が初等科から通っていた名門ミッション女子校ではなく、少し世間に揉まれて強くなるようにと名門ではあるものの共学の学校に入れたのだ。
でもこれが間違いだった…と蔦子は随分と長いこと義勇の学校選びに反対しなかったことを後悔する。
可愛い妹が泣きながら帰ってきたのは、なんと入学式翌日のことだった。
同じクラスの男の子に意地悪をされたらしい。
こんなに可愛い義勇をイジメるなんて万死に値するっ!!
普段は温厚なことで知られる蔦子だったが、これには大激怒をした。
両親にも断固として抗議するべきだと訴えたのだが、両親は子どもの問題にあまり親が介入しすぎると、かえって義勇がクラスで浮くことになるという考えだったので、蔦子も従わざるを得ない。
でも蔦子はその代わりに毎日帰宅すると義勇と極力話をして、その気持ちに寄り添うことにした。
そんな日々が続くうち、義勇の学校の様子も見えてくる。
中心になって義勇をイジメているのは不死川実弥という腕白な男子だった。
悪口を言うだけではなく、時に義勇の綺麗な髪をひっぱったり突飛ばしたりという暴挙に及んでいるらしい。
消しゴムを隠した時にはさすがに親が担任の先生に言ってくれたが、『すぐ先生にチクりやがって!!』と怒鳴った挙句、消しゴムを投げつけてきたらしい。
それが目に当たった義勇は大泣きをして、駆け付けた担任に保健室に連れて行かれて、念のため親が呼ばれて早退して眼科に行くという騒ぎになった。
それでも相手は謝罪もお咎めもなしである。
その時点で訴えるべきだったのだ…と蔦子は真剣に思っているが、幸いにして義勇は驚いて泣いただけで怪我はしなかったので、大ごとにはならなかった。
そのせいか不死川のイジメは止むことはなく、むしろ義勇の方がそれに慣れてきてしまった感じで時が進んで行く。
「たまにね、宇髄君とかが止めてくれるんだよ」
と、不死川と一緒になってからかったり意地悪をする男子が多い中で、唯一くらいに不死川に注意を促してくれるという宇髄君は蔦子の脳内では王子様候補認定された。
たまにじゃなく、いつも止めてくれれば完璧なんだけど…などと思いながら、義勇の小学校行事の写真で顔をチェックするとなかなかのイケメン君である。
なので
「宇髄君と仲良くなったりとかはしないの?」
とわくわくして聞くが、義勇はゆるゆると首を横に振って
「宇髄君はね、明るくて人気者で…私だけじゃくて女の子にはわりかし親切な男子なの」
と言うので、少しだけがっかりした。
少女漫画のようにいじわるから守ってくれてそこから…みたいな展開は現実ではなかなかあるものではないようである。
0 件のコメント :
コメントを投稿