…ということで、その週の日曜日。
鱗滝君が義勇の家に来てくれることになった。
嬉しいと言えば嬉しいが、心配と言えば心配だ。
家族だから心配するのは当たり前とは言ってくれたが、実際、本気で中学生にもなった妹を心配する姉さんや、心配されるほどにダメな自分に呆れたりしないだろうか…。
約束の時間は14時なのだが、朝からソワソワする義勇。
お願いだからおかしなことは言わないでね?と言う言葉が喉元まで出かかるが、それは今までずっと義勇に寄り添い続けて、今も本当に義勇の事を心配してくれる姉に悪くて言えない。
一方で姉の蔦子も別の意味でソワソワ。
母はそんな娘たちをあらあら、と言うように笑って見ている。
父親はと言うと、『蔦子よりも先に義勇の彼氏に会うことになるとは思わなかったなぁ』と感慨深げ。
いつもと変わらない自宅で、しかしいつもとどこか違う空気の中で早めの昼食を食べて、後片付けは父が手伝って、姉は初めて私服で彼に会う義勇のために、最後に服装と髪型のチェックをしてくれた。
そうして13時ジャストに鳴るチャイム。
「は~い!」
とパタパタと玄関まで走る義勇とゆっくりそれを追う家族一同。
そして相手も確認せずに思い切りドアを開けると、そこに立っていた鱗滝君はちょっと驚いたように目を見開いて、それから
「ドアはちゃんと相手を確認して開けないと危ないぞ?」
と苦笑した。
「あ…忘れてた」
と片手を口に当てて義勇が言うと、
「昨今物騒だからな。気を付けて」
と今度は少し気づかわし気に笑みを浮かべる。
ああ、カッコいいなぁ。
こんなカッコいい彼にこんな風に心配してもらって幸せだ~…とほわほわしていると、鱗滝君の視線は義勇に追って玄関に辿り着いた家族へ。
そこで居住まいを正して
「初めまして。一月ほど前から義勇さんと交際をさせて頂いている鱗滝錆兎です」
ときちんと挨拶をしてくれる。
しかしその時意外なところから意外な声が…
「あ~、やっぱり錆兎君かぁ…。
鱗滝って名前はすごく珍しいから、たぶんそうだとは思ったんだけど。
僕の事覚えてないかな?」
と父からなんだか親し気な言葉が出て、鱗滝君は少しホッとした顔で
「ええ、覚えてます、冨岡さん。
祖父が海外に行く前にお会いしたきりなので、たしか3年ぶり…でしょうか」
と答えた。
そのやりとりに女性陣から事情説明を求める視線を向けられて、父は
「えっとね、3年前まで僕の会社の福利厚生で来て頂いていた剣道の先生のお孫さん。
何回か先生のご自宅に招かれて練習させて頂いた時に会ったんだ」
と教えてくれる。
「立ち話もなんだし、とにかく上がって頂いて」
と父が続けると、鱗滝君は
「これ、よろしければ皆さんで召し上がって下さい」
となんだか包みを渡してくれる。
「あら、森八の和菓子っ。私大好きなの」
と受け取ってニコニコする母に、父が
「葉子…」
と、たしなめる視線を送るが、鱗滝君はにこりと
「本当は洋菓子の方が良いのかと思ったんですが、ケーキとかだと種類が多くて好みがわからないので…。
気に入って頂けて良かったです」
と、なんとも本当に中学生か?と思うような卒のない言葉を返した。
鱗滝君はよく義勇のことを育ちが良さそうというけれど、絶対に鱗滝君の方がお育ちが良いと義勇は思う。
会うまではあれだけ警戒をしていた蔦子姉さんもなんだか色々と安心したのかにこにことしている。
父とも母とも普通に綺麗な敬語できちんとした会話をしているし、蔦子姉さんも義勇の学校生活について色々聞いてきたが、それにも安心してもらえるような言葉で何かあってもフォローに入るのでと言ってくれた。
最後に蔦子姉さんが、
「色々あったから少し神経質になって色々聞いてしまってごめんなさいね」
と言った時も、彼は笑顔で
「いえ、義勇さんからとても仲の良い姉妹だと聞いていたので、お姉さんが心配していると義勇さんも逆に心配になってしまうでしょうから、お姉さんに安心してもらえればと思うので、今後も気になったことがあれば何でも聞いて下さい」
と言ってくれて、義勇が男の子と付き合うことを一番心配していた蔦子姉さんが一番鱗滝君との交際を喜んでくれるようになった。
彼が帰ったあとの冨岡家の女性陣はもう3人全員で鱗滝君を大絶賛。
父も元々娘の交際相手に『絶対に許さん!』なんて言うタイプではないものの、相手が自分も知っているとても良いお家のお育ちの良い息子さんということで、『できればこのまま交際を続けてゴールインしたいね』なんて言っていた。
もちろん!義勇だってそこまで持って行けるなら持って行きたい。
ということで、鱗滝君帰宅後の冨岡家では、『鱗滝君を婿に迎えよう計画』を達成すべくに家族一丸となって協力するということで意見の一致をみたのだった。
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