あのグダグダから数日。
不死川が途中で逃げたので、最終的に不死川が相談していたネットの民に対する尻拭いまでさせられた宇髄にも、ようやく束の間の平和が訪れていた。
そう、”束の間の”。
恐ろしいことにあの時の話し合いの諸々は、なんと伊黒の口からクラスに広まっていた。
ここで何故伊黒かと言うと、面白がったクラスの女子が数名、伊黒に
「蜜璃ちゃん、大丈夫だった?
不死川に粘着されるなんて大変だったよね」
などと声をかけてきたのである。
もちろん彼女達は甘露寺のことを心配しているわけではない。
あの時、不死川と真っ向から揉めていた伊黒にそんな風に言えば、伊黒の口から何か面白い話が聞けるんじゃないかと言う、とんでもない下心から出た言葉である。
そしてこれが錆兎とか村田だったなら、そのあたりを上手にぼかして、結果、甘露寺は大丈夫。ちょっとした誤解だったんだ…という方向で綺麗にシャットしていたのだろうが、伊黒は元々甘露寺と甘露寺が特別に好意を持っているあたりの人間、つまり、幼馴染の煉獄や錆兎、村田であるとか、今一番の仲良しで親友とも呼べる仲である義勇以外には忖度する気などさらさらない。
むしろ甘露寺に”なんか”興味はないという言い方に腹を立てていたので、
「あいつは自分が好きなのは冨岡で甘露寺になんか興味はないとうそぶいたが、俺は騙されん」
と、その苛立ちを口にしたので、その話があっという間に女子の間で広まった。
そのことを仲の良い隣のクラスの女子から伝え聞いた時に、宇髄は(うわぁ~!!まじかぁ~!!)と内心頭を抱えた。
もう揉める予感しかしない。
これがまだ村田あたりの片思いの話なら、人柄の良さで好かれはしても嫌われはしない男なので、なんなら少しくらい協力してやろうかという女子もでてくるだろうが、今回の当事者は不死川だ。
一部の理解のある男子には気のいい奴と認識されているが、たいていの同級生の認識としては、態度も言葉も乱暴で嫌な奴である。
特に女子はそうだろう。
もうそれは家庭環境…つまり、お育ちと言う奴なんだろうが、深い意味もなく、『おはよう』や『またな』くらいの感覚で死ね死ね言うし、何かに戸惑っている相手を見かけて助けてやろうと思って近づくことも多々あるのだが、手を貸す前に『どんくせえなっ!見ててうぜえっ!』というような言葉を吐いてしまうので、おそらくその後に『手伝ってやるから、貸せっ』という言葉を続けるつもりなのは、付き合いの長い宇髄にはわかるのだが、相手はその言葉を言われた時点で距離を取る。
だから手伝ってやろうと思っているという真意はたいてい伝わらない。
そんな不器用な善意がわかって慣れてしまえば悪い奴ではないし、そこまで付き合いを躊躇する相手でもないんじゃないかと、不死川の長い初恋を応援してはみたものの、宇髄だって、悪い奴じゃないどころか、不死川より顔も成績も運動神経も良くて乱暴な言葉も吐かなければ乱暴な態度をとることもなく、優しく接してくれる錆兎と付き合い始めた時点で、不死川の恋の成就は諦めた。
だが、だからと言ってそれを面白おかしく言いふらされるのもなぁ…とは思う。
ということで宇髄は心情的には不死川の側に立っていたかったわけなのだが、そうも言っていられないやらかしをしてしまったようだ。
正確には不死川じゃなく、不死川の弟が……。
これはもう宇髄もとても不思議に思っているのだが、自分の粗暴な態度や言葉で義勇に近寄りたくない男と認識されていることをあれだけ言っても理解していない不死川なのだが、何故かその他の同級生の女子達に嫌われていることは自覚している。
なので不死川は学校では可愛がっている弟妹と自分と仲が良いような態度をあまり見せようとしないし、弟妹達にも兄弟仲が良いことは口にするなと言っているらしい。
そして弟妹達は『兄ちゃんがいう事だから』と不死川の判断に従っているようだが、唯一すぐ下の弟の玄弥だけは、自分達が大好きな兄が周りに配慮しなければならないほど嫌われているということに納得がいかないらしい。
学校で不死川に話しかけては自分の悪評が弟に影響して欲しくない不死川に殴られている。
それでも兄ちゃん大好きなこの弟が今回とんでもないことをやらかしてしまったのだ。
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