教室につくと義勇はまず伊黒君に礼を言いに行ったのだが、伊黒君は照れ屋なのだろう。
「確かに俺は甘露寺の願いを叶えるために冨岡に恋人が出来れば良いと思っていたし、その恋人に相応しいのは錆兎を置いて他にないと思っていた。
だから二人がつきあうように勧めようと思っていたのは確かだが、俺が何かする前にお前達は付き合うことになったからな。
実際のところは何もしていない。
まあ…どうしても誰かに感謝したいということなら、優しい甘露寺の心に深く感謝の念を持つことは止めはしないぞ」
という言葉が返ってきた。
どちらにしても伊黒君が影響していると言われればしっくりくる状況なので、
「うん!じゃあ伊黒君と蜜璃ちゃんに感謝しておくね」
と義勇は機嫌よく言うと、そろそろホームルームも始まることだしと自分の席についた。
不死川には正直感謝している。
伊黒君が自分ではそうと感じていないにしても、鱗滝君が義勇と付き合おうと思ってくれたことに彼が影響を及ぼしていることは確かなはずだ。
世界で一番素敵なDCと付き合えるなんて幸運を授けてもらったのに、義勇ときたら礼を言わなければならないことにさえ気づいていなかった。
そんな非礼、許されるはずがない。
このままだったらとんだ恩知らずになるところだった。
ということで、その日の昼休みに班のみんなで屋上でお弁当を食べて戻った机の引き出しに
『手紙読んだかァ?』
という小さなメモを見つけた時には、もう授業も始まる直前だったし、不死川の所まで行って、
「ちゃんとお礼言ってきた。
指摘してくれてありがとう」
とだけ言って返事も聞かずに戻ってきた。
いつも意地悪ばかりいう嫌な奴だったが、義勇以外の人間には意外にきちんと礼を尽くす人間なのかもしれない。
まあ別に意地悪を言ってこないなら、義勇の周りの友達と一緒に居ることで必然的に義勇と一緒にいることになってしまうくらいは仕方ない。
その時はそんな風に思っていた。
しかしそんな風に浮上した不死川への評価は放課後に消え去る。
帰りのホームルームが終わって義勇がさあ帰ろうか…とカバンに手をやると、いきなり掴まれる腕。
その時点でざわり…と義勇の班の班員に緊張が走った。
「貴様っ!何をしているっ!!昨日の話し合いをもう無視するつもりかっ!!」
と、おそらく身内には優しいのだろう。
まず伊黒君がそう怒鳴る。
「不死川…甘露寺さんの時も言ったけどさ、いきなり異性に触れちゃだめだよ?」
と、こちらは昨日の騒動で学習したらしく、即、フォローに入って、そっと手を外そうとする村田君。
その村田君の手をもう片方の手で振りほどいて、
「ああぁ?冨岡が良いって言うなら良いんだろォ?
他の奴らは余計なお世話なんだよっ」
と、ドヤ顔で言う不死川。
「………私…良いって言ってない」
と、そこで義勇はすかさず言った。
それにポカンと驚いた顔で一瞬固まって、しかし腕は掴んだまま
「ああ??彼氏相手に何馬鹿なこと言ってんだァ?」
と不死川が言った時点で、伊黒が
「とうとう妄想が入ってきたか…
悪いことは言わん。病院へ行け、不死川」
とはぁ~っとため息をついて言った。
「…ありえない。
何故そういう話になる?」
ととりあえず自力で思い切りブン!!と不死川の手を振り払う義勇に、
「てめえっ!!礼を言って別れたって言いに来たじゃねえかァ!!!」
とキレる不死川。
「あ~…私の方から話しかけたから解除されたかと思ったの?
あれは単に忠告への報告だよ?
それになぜ彼氏?わけわかんない。私の彼は錆兎だけど…」
と、不死川が近づいてきた理由は想像がついたが、何故そこから一足飛びにそんな話になっているのか本当にわけがわからない。
「ふ、ふざけるなぁぁ~!!!からかってんのかァ?!!」
と思わず手が出かけるが、そこで不死川の両手をガシッと掴むのは煉獄君で、鱗滝君は義勇を後ろにかばいながら剣道部員の同級生に
「すまないが、今日は俺と杏寿郎は練習を休むと顧問の先生に伝えて欲しい」
と依頼する。
そうして、伊黒君と甘露寺さんの予定も聞いた上で義勇を甘露寺さんに預け、
「村田も手伝ってくれ」
と村田君にも頼んで二人で机をくっつけて話し合う状態を作り始めた。
そうしておいて、同級生の一人に隣のクラスの宇髄君を呼びに行ってもらっている。
「色々誤解があるようだし、話し合い再びだな」
と、席が出来た時点で、それぞれに落ち着いていったん席に着くように依頼した。
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