朝…義勇はいつもの通り少しだけ早めの登校で、学校の最寄り駅から甘露寺さんと伊黒君と合流して、そのまま学校まで一緒に行った。
だが近々甘露寺さん達カップルとめでたく鱗滝君と付き合えることになった義勇達とでWデートをしようということで、女子二人があそこがいい、ここがいいと話し合っていると、隣でスマホで情報を調べて教えてくれる。
その日はそんな風にお弁当を持って大きな公園か植物園でもいいね、なんて話をしているうちに、教室へ着いた。
そしてそれぞれ席へつく。
するとなぜか見知った方向からすごい視線を感じるが、とりあえず約束は約束だし近づいては来ないだろうと無視することにして、義勇はカバンを開けて教科書を出すと、一部机の引き出しに入れようとして気が付いた。
教科書を持って引き出しに入れた義勇の手の先に何かが当たる。
嫌な予感がしつつもそれを出してみると、茶封筒だった。
表書きに『誰にも見せるな』と書いてある時点で嫌な予感しかしない。
いれたのはまあ十中八九、今ものすごい目で睨みつけてきている不死川だろう。
固まっている義勇に甘露寺が
「義勇ちゃん、どうしたの?何かあった?」
と聞いてきてくれるが、誰にも見せるなと書いてあるし、それを見せると不死川がまた面倒なことを言ってきそうだなと思ったので、それをそっとポケットにしまうと、
「なんでもないよ」
と首を横に振った。
さあ、どうするか。
とりあえず中身を確認して、どうするかはそれからだ。
ということで内容を確認したいが、ここで読んでいると甘露寺さんが心配してきてくれてしまうので、人目のない場所で読んだ方がいいのだろうが、人目がないと万が一不死川が約束を破って来ても嫌だ。
…となると……
「村田君、悪いけど少しつきあってもらっていい?」
義勇は斜め後ろの席で同じく教科書整理をしていた村田君に声をかけた。
「え?なに?俺でいいの?」
と、村田君はちょっと驚いたようにチラリと甘露寺さんに視線を向けるが
「うん。村田君が適任かなって思って」
と義勇が頷くと、
「良いけど?」
と黙ってついてきてくれた。
村田大志君は色々な意味で良い人だ。
容姿も普通だし成績も運動も普通。
本当にあらゆることが普通で目立たないのだけど、何故か必要な時に必要な行動のとれる実はすごい人なのである。
謙虚で控えめで実直で…変に興味本位に色々に首を突っ込んだりしないので、実は鱗滝君や煉獄君のように目立ってすごい人達も彼のことは信頼しているし、一目置いているのも知っている。
ということで、村田君を連れて特別教室のある4階に向かう階段の踊り場へ。
「そこで待っててくれる?」
と義勇が少し離れた階段を指さして言うと、村田君は不思議そうにしながらも
「うん。わかった」
と階段に座った。
そうして義勇はポケットからさっきの封筒を取り出した。
「…それ…なに?…あ、言えないなら聞かないけど…」
と、言えないなら以下の言葉が添えられるのが村田君だなと思いつつも、義勇は
「朝、机の中に入ってた。
誰にも見せるなって表書きに書いてあるから一人で読んだ方が良いのかなと思ったけど、一人で居る時に不死川とか来たら嫌だから、村田君に来てもらったの」
と答える。
「それ…言っていいの?誰にも言うなって書いてあったんでしょ?」
「誰にも言うなじゃなくて見せるなだから、現物見なければセーフだと思う。
でも教室だと見えちゃうでしょ?だから人のいない所で読みたかったの」
そんなやりとり。
(そういう問題…かなぁ?冨岡さんて…成績良いけどかなり天然だよな)
と、村田に内心そんな風に思われているのに気づかずに、義勇は封筒を開いて中に入っていたルーズリーフを取りだした。
文面…
『お前さ、鱗滝と付き合い始めたってことだけどな、あいつはWデートをしてえって言う甘露寺のためにお前に彼氏を作りたかった伊黒に頼まれてお前と付き合ってるだけだからな。
お前の事を好きでつきあってるんじゃねえんだから、お前はちゃんとお前のこと好きな奴と付き合った方がいいだろ。
だから俺がつきあってやるから、奴には礼を言って別れておけ。
不死川』
まあ誰からのかというのは予想通りだったが、中身はいかがなものかと義勇は思う。
なるほど、鱗滝君のような素敵な男子が義勇と付き合ってくれたのを常々不思議に思っていたのだが、理由はよくわかった。
普通なら絶対に叶わない恋を成就させてくれた伊黒君にはお礼を言わなければならないのもよくわかる。
でもなぜ伊黒君にお礼を言うのに不死川に付き合ってもらわなければならないのかはよくわからない。
本来は義勇が一人できちんと礼を述べるところだし、どうしてもそれにつきあってもらうとしたら不死川よりは甘露寺さんだろう。
そして別れておけというのは、分かれての間違いだろう。
さすが国語の成績が底辺な男子だ…と、義勇は脳内で突っ込みをいれた。
「…読み終わった?」
義勇が紙から目を離すとそう聞いてくる村田君に
「読み終わったけど…よくわかんない。
これ、不死川君からで、ようは錆兎が私とつきあってくれたのは、蜜璃ちゃんがWデートしたいから私にも彼氏を作りたいって言ってくれて、伊黒君がそれならって錆兎に頼んでくれたからなんだって。
でもって…伊黒君にちゃんとお礼を言っておくべきだし、お礼を言うのにつきあってやるって言われたんだけど、伊黒君とは知らない仲じゃないしちゃんと一人でお礼くらい言えるし、そもそもがお礼を言うのにどうしても誰かにつきあってもらうとしたら、不死川君よりも蜜璃ちゃんじゃないかと思う」
と言うと、村田君は
「…なんか…わけわかんないんだけど…」
とたいそう複雑な顔をした。
色々によく気づく村田君がわからないくらいなら、自分にわかるはずがない。
不死川は手紙を書くならそのあたりの理由とか、もっと相手に分かるように説明をいれるべきだし、もう少し国語を勉強したほうがいい。
義勇はもうわからないことは放置で、とりあえず伊黒君にはお礼を言おうと決めて、村田君と一緒に教室へもどって行った。
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