彼女が彼に恋した時_6_中編

義勇が甘露寺さんと体育館に行くと、そこには当たり前だが剣道着を着た鱗滝君と煉獄君がいる。

(…う…鱗滝君、いつもにもましてカッコいいなぁ…)
と、その雄姿に思わず見惚れて固まる義勇。

本当に袴を履いて竹刀を持つ彼は清廉と言った言葉がぴったりだと思う。
あんな素敵な男の子が昨日から自分の彼氏になってくれたなんて本当に今でも信じられない。

「…義勇、どうした?」
と、そんな風に見惚れる義勇の視線にすぐ気づくのもすごい。
声をかける前に気づいてくれて、先生に何か言って抜けて来てくれる。

そして用件を聞くためにすぐそばまで来てくれた鱗滝君は至近距離で見るにはカッコよすぎて義勇はつい言葉を失ってしまったが、幸いにして義勇は一人ではない。

甘露寺さんは伊黒君を残して来ているしジリジリとしていたらしい。

「し、不死川君がね、伊黒君と喧嘩みたいになって…
村田君が鱗滝君と煉獄君を仲裁に呼んで来て欲しいって」
と要件を簡潔に伝えてくれた。

そしてそれを聞いた鱗滝君は、あ~!と額に手を当て、
「うん、ちょっと待っててくれ。
とりあえず先生に今日はもう抜ける許可を取ってくるから」
と言うと、駆け出して行った。

そうしてすぐ煉獄君と戻ってくる。

そして
「着替える暇は…ないよな」
と、そのまま義勇達と教室へ。

状況を考えればそんな場合ではないのだが、義勇は早足で歩く胴着姿の鱗滝君がかっこよすぎて、隣を小走りで走りながらついついそちらをチラ見してしまう。

義勇はチラ見だと思っていた……が、かなりガン見していたらしい。
鱗滝君は少し歩を緩めて
「ごめん、速かったか?」
と聞いてくれる。

いや、そうじゃなくて…と思いつつ本当のことを言うわけにもいかないので、義勇は首を横に振って
「ううん、大丈夫。急がなくちゃね」
とごまかした。

「義勇は優しいな」
と、それで鱗滝君が勘違いしてくれたことにちょっぴり罪悪感を感じて足を速める義勇。

結果、それは正解だったようだ。
義勇達が教室に入るとすでに怒鳴り声が聞こえてくる。

「ふざけんなァっ!!」
と言う不死川に、
「ふざけているのはどちらだっ!!」
と言う伊黒君。

今にも殴り合いが始まるんじゃないかといった感じの一触即発の空気。
そこでそれまで義勇達に合せてゆっくり目に移動していた鱗滝君と煉獄君が目にもとまらぬ速さで二人の間に体を割り込ませた。

ちらりと互いにアイコンタクトを送る二人。
そして鱗滝君が頷く。

このあたりの阿吽の呼吸のやりとりがなんだかカッコいい。
もう鱗滝君を見ていると、義勇の脳内にはカッコいいの言葉しか浮かんでこない。

そんなもう国宝級にカッコいい鱗滝君はまたこんな状況に動揺することもなく、非常に冷静な様子で
「二人とも落ち着け。
感情的になってもいい結果はでないだろう?
無関係な皆の居る前で争ってはおおごとにもなるし、どうだろう?
今日、昼休みに関係者…不死川と伊黒、それに甘露寺さんか?…が集まって、俺と宇髄、それに村田が立会人ということで話をしないか?」
などと言う。

状況が全くわからないのに適切な提案をできる彼に義勇は自分の脳内でもう何度目かわからない恋に落ちる音を聴いた。

しかしそれに対して煉獄君が自分の名が入っていないと不満を述べて、鱗滝君が煉獄君もと言ったあたりで、義勇も気づいた。
自分の名もない!

普段なら面倒ごと…しかも不死川が関係する面倒ごとなんて絶対に関わりたくはないと思うところだが、仲裁に入る鱗滝君のカッコいい姿を目に脳に焼き付けなければならないと思えば、そんなことは言ってられない。
なので自分も立ち会いたいと申し出て了承された。

こうしてその日の昼休み、義勇達の班員全員と宇髄君、そして不死川の話し合いがもたれることになったのである。






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