彼女が彼に恋した時_6_前編

月曜日…途中で甘露寺さんに呼び出されて宇髄君の話を聞いて時間をとられたが、その後のクレープ屋さんでは楽しかったどころか、なんと鱗滝君と付き合うことになってしまって、夢見心地の義勇。

鱗滝君はなんだか義勇を過大評価してくれているみたいで、不死川のアレも義勇に対する好意からくるものなのだろうなんて言っていたが、ありえない。
もし義勇のことが好きであの態度と言葉だったとしたら、不死川は本当に馬鹿だと思う。

…が、正直不死川はもうどうでもいい。
義勇の事を好きだろうと嫌いだろうと、しばらくは近づいてこない約束だし、近づいてさえ来なければ義勇の側はまあスルーすることはできる。

その日はなんと鱗滝君が最寄り駅まで送ってくれて、家に戻ると姉が帰ってくるのを今か今かと待ちわびて、帰ってきたら二人でジュースで乾杯した。

もちろん寝る前に甘露寺さんにも報告しておく。
彼女はあの調理実習の日にクッキーを渡しながら伊黒君に告白したとのことで、、義勇より一足先にカップルになっていたが、
『素敵っ!これで私達4人でWデートが出来るわねっ。
義勇ちゃん、本当に良かったわね』
と喜んでくれた。

Wデート…以前甘露寺さんからそんな言葉が出た時には、自分が鱗滝君とカップルになれる可能性なんてないと思っていたのだが、よもや本当にデートできる身分になれる日がくるとは思わなかった。

まあ鱗滝君の言い方だと、半分は不死川のちょっかいに困っていた義勇を助けてくれようとしているのかなと思わないでもないのだが、それでも良いと思っている。

あの鱗滝君とデート出来たなら、それはきっと一生の思い出になる。
消えない宝物だ。

そんな風に幸せな気持ちを抱えて眠りにつき、翌朝、今の班になってからは毎日学校が楽しかったが、それまでにも増して楽しい気分で学校に向かう。

義勇はわりあいと朝が早い方だが、伊黒君と待ち合わせてくるためか甘露寺さんも朝が早いので、学校の最寄り駅で二人と一緒になって、登校する道々、甘露寺さんと昨日の話で盛り上がった。

伊黒君は他の人が甘露寺さんと話していると嫌そうな顔をするけど、義勇は甘露寺さんの同性の友達だからか嫌がる様子はない。
むしろ義勇と楽しそうにおしゃべりをする甘露寺さんを優しい目でみつめている。

そうして和やかな空気のまま、3人で教室に入ったが、その楽しい空気は3人の席のあたりで苛々とした様子を隠そうともせずに腕組みをして立っている不死川によってあっという間に霧散した。

「ちっと、甘露寺と話をさせろォ!」
と殺伐としてきた空気をいち早く察して間に割って入る伊黒君だが、そんな彼をものともせず、不死川は甘露寺さんの腕を乱暴につかむ。

「きさまっ!!甘露寺に何をするっ!!」
「ちっと話をしてえだけだっ!!」
「許さんっ!!その手を放せっ!!でないと斬り落とすぞっ!!」
と、飽くまで手を離さない不死川に、伊黒君はなんと机の中からハサミを取り出した。

うわあぁぁ~~!!!!
と動揺する女子二人。

「すと~っぷっ!!!
とりあえず不死川は手を放そうか~。
お互いすぐ手を出すのは良くないよ。
まずは言葉で要望を伝えようよ、不死川」
と、そこで間に入ってくれたのは、村田君だ。

彼はいつもいつもいいタイミングで仕切ってくれる。
今回も
「とりあえずね、相手は女子だからね?
許可なくいきなり触るのはダメ。
これは…不死川だけじゃなくて、俺達男子が今後生きていくうえで肝に銘じておかないと、下手すれば犯罪者扱いされるからね?
今は女性の立場って強いからさ」
とおどけた様子で言うのに、不死川も少し冷静になったようで
「ね?今は男は紳士じゃないとダメな時代よ?」
と、そっと手を外す村田君の動作を受け入れて、手の力を抜いた。

そうして甘露寺さんの腕から不死川の手が離れた時点で、伊黒君もハサミを置く。
はぁ~っとため息をつく女子2人と村田君。

義勇達の班は後ろの窓側なので、幸いにして朝早くから登校している数少ない同級生たちはそのやりとりに気づいてはいない。

が、ホッとした義勇達と違い、村田君は次を考えていたらしい。

「とりあえず不死川は甘露寺さんに何を言いたかったのかとか、俺らの前では言えない感じかな?
でも一応さ、伊黒の彼女なわけよ、甘露寺さん。
そしたら伊黒が嫌がるのはわかるよね?」
と説得をしつつ、後ろ手で義勇にメモを渡す。

開いてみると、
『錆兎と杏寿郎を呼んで来て。剣道部は体育館』
とある。
そして二人でと示すように、やっぱり後ろ手に二本指を立てて見せた。

とても失礼な話なのだが、村田君はいつだって影が薄くて、義勇は彼がいつのまにこんなメモを書いていたのかすらわからなかった。

正直急展開にぽか~んとしている義勇と違って、甘露寺さんの方は状況をいちはやく理解したらしい。

(…義勇ちゃん、急いで呼びに行くわよ)
と、義勇の手をしっかりつかんで、教室の外まで引っ張っていった。








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