彼女が彼に恋した時_5_幕間_宇髄天元の巻き込まれ後編

翌日、宇髄は関わったこと、自分の対応など、全てを後悔をする。

宇髄が朝に登校してみれば、なんだか隣のクラスが騒々しい。
宇髄のクラスの多くの同級生達も隣のクラスを見に行っているようだ。

すごく嫌な予感がする…。
まさか義勇と急激に距離が近くなっていると知って、鱗滝に殴りかかったりしていたりしないだろうか…
もしそうなら昨日の自分の発言が原因だ。

宇髄は焦ってカバンを机に乱暴に放り投げると、隣のクラスへと急いだ。
しかしそこで見たものは……

激昂している伊黒と苛ついている不死川。
なるほど、珍しい組み合わせに野次馬達も結構な数になっていた。

「きさまっ!!やっぱり甘露寺目当てだったかっ!!
きさまのような男が近づけるような相手だと思うなっ!!!」
と、普段は淡々と感情をあらわにしない、嫌悪したとしてもネチネチと嫌な言い方で対応をする伊黒が、本当に珍しく怒鳴っている。

それに対して不死川の方も苛々と
「ちげえよっ!!俺は甘露寺になんか興味はねえっ!!」
と怒鳴って、それが
「貴様っ!!今、何と言ったっ!!
貴様ごときが、いや、世界の誰だろうと甘露寺を侮辱するのは万死に値するっ!!」
とまた伊黒を怒らせている。

「…村田ぁ…これ、何がどうなってんだ?」
と、宇髄はそれをいったん放置で、一番正確に状況を聞けそうなあたりに声をかける。

「あ~、宇髄、良かったっ。不死川をいったん連れて行ってよ」
と、宇髄の姿を見つけてホッとする村田。

「連れてくのは良いが、一体何が起こってんだ?
甘露寺がどうのとか言ってたが…」
と事情がわからないのに介入しようがないというと、村田は、はあぁぁ~と大きく息を吐きだした。

「えっとね…今朝、不死川が教室に入るなり甘露寺に話をしたいって特攻して、強引に腕を掴んでどこかへ連れて行こうとしたから、伊黒がキレた」

うわぁ~それはキレるわ…と宇髄でも思う。
だがそれがわからないのが不死川だ。

「で?その甘露寺は?冨岡もいねえけど…」

「うん。俺だと物理になった時に止められないし、部活中の杏寿郎と錆兎を冨岡と一緒に呼びに行ってもらった。
ほら、不死川が激昂し始めたら、伊黒が危ないって甘露寺が張り倒しかねないでしょ?
女の子にそんな真似させられないし、したらしたで伊黒がまた落ち込みそうだしね。
冨岡は…たぶん不死川が甘露寺に話したいのって彼女の事だろうから、矛先行ったら危ないから。
ってことで杏寿郎と錆兎待ちだったんだけど…」

この大騒ぎの中で誰に何をさせるべきなのか、瞬時に判断できる村田は実はすごい奴だと宇髄は感心した。
地味な奴だと舐めてたな…と認識をあらたに、自分の中の村田の情報を書き換える。

そして
「おい、不死川、お前、伊黒に喧嘩売ったっていいこたぁねえだろうっ。
いい加減にしとけよ?」
と、不死川の肩に手を置いて声をかけた。

不死川を宥めるためなら軽い調子で言いたいところだが、真剣な様子を見せておかないと、今度は伊黒の信頼を失いかねないので、加減が難しい所だ。

「俺が喧嘩売ったわけじゃねえっ!伊黒のやつが…」
「お前の言い分はあとで聞くから黙っとけ!」
と、不満げに口にする不死川の訴えはいったん遮って、宇髄は伊黒を振り返る。

「昨日のお前の話と随分違うんだが?
お前も騙されていたのか、グルだったのかどちらだ?
後者だった場合は俺もお前との付き合いを考えさせてもらうが?!」
と、伊黒にすごい目で睨まれて、宇髄はもう色々を投げ出したくなるが、今誤解をといておかないと、自分の今後の人間関係にも影響する。

なのでとりあえず
「俺が昨日口にしたのは、俺が聞いたことが全て事実だという認識から出た発言だ。
今日の不死川の行動は、いま村田から聞いて初めて知った。
なんなら村田に聞いてくれ」
と、身の潔白は表明しておいた。

名を出された村田はちょっと驚いたようだが、嘘をつく理由もないので、自分に視線を向けた伊黒に対して、うんうんと頷いてみせる。

そこで伊黒が納得してくれたようで少し柔らかくなる視線にホッと一息。
しかしそれは宇髄が認識しているかどうかの件であって、誤解自体は全く解けていなかったらしい。

「ではお前も騙されていたのか。
不死川は卑怯にもお前を使って情報操作をして油断をさせて甘露寺に近づくつもりだったんだ」
と、こじれにこじれまくった持論を主張してきた。

ああ、それは違う、誤解だと訂正したい宇髄だが、じゃあなんだ?と聞かれても、まさか皆の前で不死川の片思いを暴露するわけにはいかない。
それが全く望みのない想い、失恋確定なものであればなおさらだ。
「ふざけんなァっ!!」
と、それを聞いて激怒する不死川に、伊黒も
「ふざけているのはどちらだっ!!」
と返して再度争いが始まるか?!と思ったところで、またタイミングよく仲裁がはいる。

「二人とも落ち着け。
感情的になってもいい結果はでないだろう?
無関係な皆の居る前で争ってはおおごとにもなるし、どうだろう?
今日、昼休みに関係者…不死川と伊黒、それに甘露寺さんか?…が集まって、俺と宇髄、それに村田が立会人ということで話をしないか?」
と、どうやら甘露寺と義勇が呼んできた錆兎が提案してきた。

それに同じく呼び出された杏寿郎がむぅっとした顔で
「俺だけ仲間外れか?」
と言うので、錆兎は苦笑。

「ああ、じゃあ杏寿郎も一緒でいいか?」
と言うと、義勇が
「それじゃあ私だけ仲間外れだし…私も……甘露寺さんのと…友達だしっ」
とちらりと甘露寺に視線を向けて言った。

それに甘露寺がにこっと
「義勇ちゃん、甘露寺さん、じゃなくて…」
と促すと、義勇はちょっと赤くなって
「う、うん……蜜璃ちゃん…」
と言い直す。
どうやら呼び名を変えることにしたらしい。

想い人と想い人の想い人?…と、その友人たくさんなんてメンツで話すのか?それでいいのか?と思わないでもないが、正直そのあたりは宇髄が気にすることでもないだろう。

「俺は良いけど…不死川は?」
と当事者に判断をゆだねる。

「あ~、もうそれでいいわ。めんどくせえ。
人伝てだと色々まどろっこしくなるしな。
じゃ、それで」
と、おそらく現状の人間関係を全く理解していないからだろうか。
不死川もそれに頷いた。

「じゃ、そういうことで冷静に話をしよう。
伊黒もそれでいいか?」
と、最終的に錆兎に確認を取られた伊黒が頷いたところで、とりあえずはいったん解散、昼休みまでは互いに行動を起こさないと確約が出来たので、宇髄はいったん自分のクラスへ戻ることにした。









0 件のコメント :

コメントを投稿