彼女が彼に恋した時_5_幕間_宇髄天元の巻き込まれ中編

──不死川~、とりあえず許す条件は聞いてきたぜ?
そう連絡を取ったのが電話でもなければ直接でもない、Lineだったのは理由がある。

デリケートな話だ。
言った言わない、あるいは間違ったことを言ったなどということがないようにするためということと、口頭だと頭に血が上った不死川にしゃべらせてもらえなくなる可能性があるからだ。

その点、文章なら不死川が何か言い続けていても、こちらも言いたいことが言える。
どちらかと言うとそちらの理由の方が大きいかもしれない。

なにしろ不死川には絶対に納得できないであろう条件と、それよりなにより、実質もう恋の成就を諦めろという宣言をすることになるからである。

宇髄が上記のメッセージを送ってから即
──おう、そうかっ!電話で話そうぜ?
と返ってきたが、前述の理由から
──いや、文章の方が間違いがないから
と、このまま話したい旨を告げた。
なのにいきなりかかってくる電話。

「お前なぁ…人のいう事聞いてるか?」
と呆れながら出たら、電話の向こうからは
「だって、まどろっこしいだろうがよォ」
と返ってきて、
(ああ、これはダメだ。たぶん苦労して出してもらった条件を言っても聞かねえな)
…と、宇髄は話す前からすでに投げ出したくなった。

そんな宇髄の心境など当然気づくはずもなく、不死川は
「で?どうだった?あれか、放課後甘いもんでも奢れとかかァ?
ま、そのくらいはしかたねえよなァ。
冨岡、おはぎとか和菓子とか好きだと思うかァ?」
と、なんだか嬉しそうに聞いてくる。

この状況で何故そこまで楽観的に考えられるのかが宇髄にはわからない。
これが普通に強い互いにきついことも言い合える系の女子ならそれもわかるが、相手は一方的に暴力暴言を受けていた大人しい女子だ。
怒っていなかったとしても加害者と二人で放課後に出かけたいなどということは怖すぎてまずありえないだろう。

まあ…自分が過去の行動で嫌われる以前に怖がられているということがわかるようなら、好きな女子にこんな態度を取ったりはしていないかもしれないが…。

「お前…ありえねえよ、それは」
と思わず返す宇髄に、不死川は
「あ、やっぱり女子だと和菓子より洒落た洋菓子かァ?」
と頓珍漢な答えを返してきて、宇髄はさすがに頭を抱えたくなった。

「ちげえよ。冨岡がお前と放課後になんか食いに行きたいなんて言うはずねえだろってことだ。
今までの態度見てりゃあ嫌ってなくても怖がられてるのはわかんだろうが」
とそのあたりをきっちり説明したのだが、それでも不死川は
「だから、これからは優しい態度で接するって言ってんだろォ。
ちゃんと伝えてくれたのかよォ」
とこれまた全く自覚のない言葉を投げかけてくるので、宇髄もさすがにイラついてきて、言ってしまった。

「信じられるわけねえだろうがっ!
お前な、やられた方の気持ちをわからなさすぎだっ!
今日、お前を許してやって欲しいからって冨岡との間に入ってもらえねえか頼んだ伊黒に俺でさえ嫌がらせをされる経験がなさすぎて被害者の心情がわかってねえって苦言を呈されてんだよっ!」
「あ~…伊黒もそういや小等部の頃に馬鹿な奴らに絡まれてたよな、そう言えば」
「お前が言うなっ!
冨岡からしたらお前もその馬鹿な奴らと同類だっ!」

もうだんだん疲れて来た。
なのに不死川はその宇髄の率直な苦言もスルーらしい。

「ま、そんなのどうでもいいわ。
で?ちゃんと機嫌なおしてもらえる方法聞いてきてくれたのかァ?」
と、まるで他人事のように言う不死川に、宇髄もこいつは気遣うだけ無駄だと諦めた。

「冨岡が良いって言うまでクラスの用事とか以外は近づくな、話しかけるなってよ。
それでお前が改心したように見えたらあっちから許可出すって言われた」
「はああぁぁ??それって許しちゃねえだろォっ!
今と変わんねえじゃねえかァ!!」

案の定、不死川はそれに異議を申し立てた。
まあそれも想定の範囲内だ。

「変わらなくねえよ。
冨岡は別にもうお前のことを怒っちゃねえけど、お前の今までの態度を考えると近づかれんのは嫌だってことだろ。
だからお前が他のクラスメートくらい暴言暴力なしに普通に接してくるだろうと判断できるまでは近づいてくれるなってだけだ」

「それじゃあ意味ねえだろうがぁ!!
そんなんじゃいつまでたってもつきあえねえっ!!」
と案の定激昂する不死川。

「いや、普通に他の奴らにも穏やかに接して生活すりゃあいいってだけだろ。
つか、この条件引き出すのだって、大変だったんだぞっ!
最初は伊黒が『許すかわりに一生冨岡に近づかず話しかけずにすればいい』っつって、冨岡もそれに大賛成だったんだからなっ?
そこで鱗滝が『それじゃあ不死川だって許された気がしないし納得しないだろう?期限と解除する条件をつけてやれ』って言ってくれなかったら、マジ2度と話すな近づくなだったんだからな?!」

わざわざ時間とお金を使って交渉までしてきたのに、意味がないとまで言われれば宇髄だってさすがに物申したい。
ついカッとなって口を滑らせたのがさらなる泥沼の始まりだった。

「…鱗滝?なんでそこに鱗滝が出てくんだァ?」
と言われて半分やけくそで
「甘露寺に冨岡を呼び出してもらったら一緒についてきたんだよ。
2人でクレープ屋行く途中だったんだとよ」
と漏らす。

「クレープ屋ぁ??!!
なんで冨岡が鱗滝とクレープ屋行くんだよっ!!」
「俺が知るかっ!!
でも”そういうこと”なんだろうよっ!」

怒鳴られて思わず怒鳴り返すと、そのまま激昂するかと思った不死川は逆に少しトーンを落として
──…付き合ってるとかじゃねえんだよな?
と聞いてきた。

ああ、ここで諦めてくれたら平和なんだよなぁと思いつつ、宇髄はどう答えようかと悩んだ末に
「伊黒曰く『今はまだつきあってはいない。だが、時間の問題だな。俺達が協力するからな』ってことだ」
と伊黒の言葉を引用する。

「なんでっ?!」
「いや…甘露寺がWデートをしてえみたいでな。
甘露寺がそうしたいって言ったらもう伊黒は全力で協力するだろ」
「ならっ!なら、何もその気のねえ鱗滝落とさないでも俺に協力してもらやあいいじゃねえかっ!
Wデートくらいつきあってやるぜェ!」

ああ、そう言うと思った…と、宇髄はため息。

「お前…なんでそんな根拠のない自信があんだよ。
お前が良くても冨岡が嫌に決まってんだろ?
今までやってきたことを胸に手を当ててよく考えてみろ」

「いや…だからこれから改めるし、他が協力してくれりゃあきっと…」
「ねえよ。
一応俺もダメ元で相手がお前じゃ無理か聞いてみたが、甘露寺に思い切り却下された。
で、伊黒もせっかくのWデートなら喧嘩おっぱじめそうな奴より信頼がおける相手がいいってよ」

言い方がきつすぎかとも思わないでもないが、ここははっきり言ってやって諦めさせた方がいい。
鱗滝の事があってもなくても、ここから巻き返しなんて絶対に無理だ。

いじめっ子が改心して優しくなって最終的にいじめられっ子とつきあってハッピーエンドなんていうのはご都合主義の漫画や小説の中にしか存在しない。

そう思った宇髄は甘かった。
伊黒の言う通り、彼はやっぱり”そういう経験をしていない男”で、不死川の行動を全く予測しきれていなかったのである。





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