彼女が彼に恋した時_5_幕間_宇髄天元の巻き込まれ前編

「なあ…もしかして、あいつらつきあってたりすんの?」

義勇を呼び出したら何故か鱗滝錆兎までついてきた時点で、宇髄はかなり動揺したが、二人がこれからクレープを食べに行くというのを見送った頃にはだいぶ落ち着いてきた。

宇髄の今日の目的は義勇に不死川のことを許してもらうことだったのだが、最終的な目的としては不死川を暴走させないことなので、今、不死川がずっと片思いをしている相手である義勇に彼氏が出来たりするのはありがたくはない。

そうではないと良いなと思いつつも、よくよく思い出してみれば、中等部の入学式の日、義勇が新入生代表の挨拶で転んだ時に囃し立てた不死川を𠮟りつけて、義勇に駈け寄って助け起こしてやったのは、確か鱗滝だった。

あれは内気であまり親しい男子がいない義勇じゃなくても惚れると思う。
もっとも義勇は内向的な女子なので自分からアプローチをかけたりはしないだろうし、鱗滝は鱗滝であれがスタンダードというか、相手が義勇じゃなくとも万人に親切に接する男だ。

親切にした1エピソードとほのかな憧れで終わる可能性も少なくはない。
というか、そうあってくれ!

そんな宇髄の願望は今の時点では叶っているというべきなのか…
「現在はまだつきあってはいないな」
と答える伊黒。

付き合ってはいないということでホッとしたいところだが、”まだ”という一言でまさにピンチで油断できない状況であるということを宇髄は察した。

ここは伊黒にはぜひ自分の方に協力をして欲しい。
不死川の暴走で義勇の傍にいる甘露寺に迷惑がかからないように…という頼み方をすればなんとかならないだろうか…と思った宇髄だが、それを言う前に
「だが、時間の問題だな。
俺達が協力するからな。
甘露寺がWデートというものをしてみたいと言うし、甘露寺が望むならきっと楽しいものなのだろう」
と伊黒が言い、その隣で甘露寺がきゃぁ~と頬に両手を当てて照れている。

え?え?そういう理由??と、甘露寺のためという方向を潰されたことに内心がっくりとしながらも
「…それ…冨岡の相手が不死川じゃだめか?」
とダメもとできいてみたが、それに対して答えたのは甘露寺で、

「ぜんっぜんダメだと思うわっ。
だって不死川君はいつも意地悪で義勇ちゃんが嫌な思いするものっ」
と、友人に対して暴力暴言を繰り返す不死川にずいぶんとご立腹な様子である。

しかしそこで諦めてしまうとあとあと面倒なことに巻き込まれる気がする。

なので、
「俺がしっかり言い聞かせて不死川も暴言暴力を振るわないとしたら…」
とそれでも食い下がる宇髄に今度は伊黒が
「ないな」
と首を横に振る。

「一方的な暴力暴言などは、加害者はすぐ忘れても被害者は忘れないものだ。
加害者が現在加害行動を起こさなくても、被害者の側はそいつが暴力を振るってきた記憶はずっとあるし、傍にいるだけで落ち着かない。
そいつが暴力を振るっていないのは”今この瞬間だけ”で、次の瞬間に殴られるかもと思うことだって多々ある。
ひどくなると、そいつが傍にいるだけで気分や体調が悪くなる。
宇髄、お前は悪い奴ではないし頭も察しも良い方だとは思うが、嫌がらせをされるという経験がなさ過ぎて被害者の心情というものをわかっていない。
贖罪をしたい加害者が被害者にできることは被害者の目につかないようにするか、目の前で被害者と関係のない理由で2度と加害活動ができない状態になることくらいだ」
と、伊黒はきっぱり。

実は伊黒も小等部時代に一時期嫌がらせを受けていたことがあるのを宇髄も知っているので、その伊黒がいう事にはどこか実感のこもった重みを感じた。

そうして黙り込んだ宇髄に、伊黒はさらにとどめを刺して来る。

「そしてそれは逆もしかりだ。
鱗滝は冨岡からすると心証がとてつもなく良いからな。
おそらく傍にいると安心できるし楽しいんじゃないか?
俺は冨岡の心情にはさほど興味はないが、曲がりなりにも甘露寺とWデートをする相手としては、やはり隣で喧嘩をされたり問題行動を起こす男よりは鱗滝のように誠実で安心感のある男がいい。
なにより甘露寺は優しいからな。
自分の友人には幸せになって欲しいというし、それなら不死川よりも圧倒的に鱗滝だろう」

そう言われてしまうと反論できない。
同級生女子全員にどちらと付き合いたいかと聞いてみたら、おそらく100人中100人が鱗滝と言うだろう。
それどころか、平々凡々な村田あたりと比較されても余裕で負けそうだ。
不死川は悪気はないのだが、言葉と態度が粗暴で悪すぎる。

(これは…荒れる時期をコントロールするために俺の口から言って、暴走を極力止めるしかねえか…)

面倒くせえ…とため息をつく宇髄からは、面倒なら関わる義理は自分にはないのだ、という事実が頭からすっぽ抜けていた。

まあ…義理はなくてもなんのかんので付き合いの長い同級生の面倒をみてしまうくらいには、彼は面倒見が良い男なのではあるのだが。








2 件のコメント :

  1. 確かに語尾がさねみんだったw...^ワ^;💦うずてんの無理ゲーチャレンジ😭

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    1. そう、実はあの時は明記していなかったんですが、さねみんだったんです😅
      そしてうずてんの巻き込まれ無理ゲーチャレンジもお約束という事で💦

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