そうして二人でクレープを頬張りながら、おしゃべりをする。
甘露寺さんならとにかく、鱗滝君とこんなことできるとは思ってもみなかったが、すごく楽しい。
鱗滝君自身は恥ずかしいというが、今どきスイーツ男子なんて別に特に変な事じゃないと義勇は思う。
そんなやりとりがなんだか特別な関係みたいで嬉しい。
今まで男子と言うといじわるな不死川とその周りの悪友たちしかいなかったので、鱗滝君に出会って男子の認識がものすごく変わった。
それを口にすると、鱗滝君はちょっと視線をクレープに向けて考え込んで、そして義勇に視線を戻して
「それなんだが…不死川のあれは、よく言う幼稚な男子が好きな女子に意地悪をしてしまうというやつなんじゃないか?」
と言う。
「ないっ!絶対にない!
そういうのって、本当に漫画とかドラマの中にしかない話だと思う。
だって普通意地悪した相手を嫌いになっても好きになることはないでしょう?
不死川君だってそれがわからないほど馬鹿じゃないと思う。
第一…好きな相手が嫌がってたり悲しんでたりするの見たくないよ?
せいぜい…あるとしたら、恥ずかしくて声かけられなかったり避けちゃったりするくらい?」
義勇が言うと、鱗滝君は
「冨岡さんは優しいからな」
と苦笑した。
「鱗滝君は?好きな子に意地悪したいとか思ったことあるの?」
と、そこで義勇が突っ込むと、鱗滝君は
「いや?俺はない」
と自分で言ったわりにそうきっぱりと否定。
じゃあどうして?と思うも、彼は
「俺は幼い頃から自分のために誰かを攻撃はするなと育てられているから。
好きな相手はもちろん、自分個人に関して折り合いが悪かったり嫌いだったりする相手が出来ても、攻撃行動はとらない。
関わりたくない相手に対しては距離を取るようにしている」
そんな真面目な話をしつつも、目の前では垂れてきそうな生クリームと必死に格闘しているのが可愛い。
「鱗滝君…美味しい?」
と思わず聞くと、うん、と即答。
義勇は小さく噴き出して、
「どうせ構われるんだったら不死川君より鱗滝君が良かったな」
とついつい本音を漏らした。
すると鱗滝君は視線だけ義勇に向けて、
「そんなに不死川に構って来られるの辛い?」
と聞くので、
「うん。小等部からずっとだけど、慣れない。
嫌いなら嫌いで無視してくれたら嬉しいんだけど…」
と頷く。
「…そっか……」
と鱗滝君はちょっとクレープとの格闘を中断して考え込んだ。
「…鱗滝君?」
急に黙る鱗滝君に義勇が声をかけると、彼は
「じゃあ…冨岡さんが嫌じゃなかったらだけど、俺とつきあってみる?
俺はあんまりそういうの詳しくないけど、冨岡さんと一緒にこうして過ごすのは楽しいし、付き合ってみれば色々わかってくると思う。
俺は気も利かないし、面白くはないかもだけど、少なくとも言ってくれれば冨岡さんが嫌なことはしないし、それが好意の裏返しにしろ悪意にしろ不死川や他の人間が嫌なことを言ったりしたりしてくるようならきちんと守るし、少なくとも大人しい冨岡さんが言うよりは俺が言った方が色々やめてくれるんじゃないかと思う。
もちろん冨岡さんが俺とつきあってみて何か違うな付き合いをやめたいなと思えば、言ってくれればちゃんと引くから」
などととんでもない提案をしてくるではないか。
嫌?鱗滝君に交際を申し込まれて嫌だなんて言う女子がいるわけないっ!!
「え??え??ホントに??私なんかでいいの?」
これが他の男子とかならまず、何故?!が先に来たと思う。
なんなら何かのからかいだったり罰ゲームなんじゃないかと疑うところだが、相手は鱗滝君だ。
そんなことをするはずがない。
「なんか、じゃなくて、俺は冨岡さんがいい。
ごめん、ずるいな、俺。
冨岡さんが人間関係に悩んでいるのに付け込んでいる気がしないでもない。
でも学校だけじゃなくて学校外でもこうして一緒に食べ歩きしたり、出かけたりしたいんだ」
ずるくない、ずるくない、ずるくない!!
なんなら同級生の女子からしたら自分の方が悩みを理由にしてこうして鱗滝君を独占するずるい人間に見えるに違いないと義勇は思う。
…そう、思うが、そんなことどうでもいいくらい、これは人生最大の幸運な機会だと思った。
「わ、私もっ!私も鱗滝君と一緒に居たい!!」
と義勇が思い切り前のめりに言うと、鱗滝君は
「ありがとう」
と、ふわっと笑って、
「じゃ、これからは鱗滝君じゃなくて、錆兎な?
俺も義勇って呼ばせてもらうから」
と言う。
さびと…錆兎…って呼ぶの?!!
心の中で名前を繰り返し呼んでみるとなんだか気恥しくて、でも嬉しくて、義勇は真っ赤な顔でうんうんと頷いた。
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