彼女が彼に恋した時_幕間_宇髄天元の憂鬱前編

──やっぱ、あれかぁ?マジうめえって言ってやるべきだったかァ?

土曜の帰りの時間。
私立産屋敷学園は土曜は半日授業である。

中等部生はほとんど自宅に帰って昼食を摂るが、宇髄の家は両親とも仕事で海外で実質一人暮らしなので、土曜の昼は途中で学生でも入りやすいファストフードで食べることにしていた。

そんないつもの感覚でマックによって、期間限定バーガーにビッグマック、ハンバーガーにLサイズのポテトとコーラと、男子学生らしく食べ物が山盛りになったトレーを片手に空いていた二人席についた宇髄の前に、コトンとSサイズのコーラが置かれて、声掛けもなく正面の席に同級生が陣取る。

「あ?珍しいな、どうしたよ?」
と、目線だけはそちらに向けつつ、気にする様子もなくビッグマックを頬張る宇髄。

「あ~…なんつ~か…ほら、お前、人間関係巧いだろォ?
ちっと相談っつ~かな…」
「冨岡のことか?」
「え?!わかるのか、やっぱりっ」

わからいでかっと宇髄は内心ため息をついた。

3人揃って小等部からの同級生。
1,2年は3人一緒で、3,4年は宇髄だけ別のクラス。
5,6年はまた一緒になった。

不死川はわかりやすく小学生男子で、好きな女子…つまり冨岡義勇によく暴言を吐いて軽い暴力を振るっていた。

子どもだった同級生達はそれが不死川の照れ隠しだということに気づきはしなかったが、唯一、大人の中で育って精神的に大人だった宇髄は最初からそれを見抜いている。
だからこそ、不死川が義勇の事で悩んだ時はいつも相談をされていたのだ。

「…今度は何やらかしたよ?」

はあぁ~とため息と共にいったんバーガーをおいて、飲み込みやすいようポテトに手を伸ばす宇髄に、いつもなら聞きもしないで遠慮なく勝手にひとのポテトを食い散らかす不死川が、今日はそれをしないどころか、自分で買った飲み物にも手を伸ばさずに項垂れる。

何があったのかは、現在は別のクラスでも実は交友関係が広い宇髄は不死川のクラスの同級生に色々聞いている。

それでも本人が何をやったのか、それについてどう思っているのかは本人の口からもきいた方がいい。
そう思ってきいてみたのだ。

「…冨岡に…無視されてる…」
ぼそりという不死川。

「理由は?」
「調理実習の時…あいつが作ったクッキーを食った。
それでその後あいつが泣いて…あいつの班の面々が間に入って来て…最終的に昼に謝ったんだが、冨岡に、絶対に許さない!って言われて、それ以来…」

ああ、やっぱりそれか…と再度ため息をつく宇髄。
さらに詳しい状況を話すようにうながすと、不死川は同じ班の甘露寺と一緒にクッキーを焼いた義勇がそれを入れた可愛い袋をテーブルに置いていたので、取り上げて中身を食ったのだという。

2枚食って、さらに残り3枚を食おうとした時に甘露寺が取り返そうと手を伸ばして来たのでうっかりそれを床に落としてしまったというおまけつきだ。

不死川的には自分がわざとクッキーをダメにしようとして落としたのだと誤解されて怒っているのだと思うという。

だからそうではなく美味しいからもっと食べようと思ったのだ、嫌がらせではないのだとわかってもらえばいいということで、冒頭の『マジうめえって言ってやるべきだったかァ?』という言葉になったようだが、宇髄は『そうじゃねえよっ!てめえが食っちまった時点で美味いと思ってようがなんだろうが嫌がらせだ』と思って…そして口にも出した。

きょとんとする不死川。
これがわからないのが宇髄にはわからない。
でも言わないともっとわからないだろうから、理解するかどうかは別にして説明することにした。

「とりあえず…無断で食われること自体、嫌に決まってんだろっ。
で、それだけじゃなくて…わざわざラッピングしてたってことは、自分で食うつもりじゃなくて誰かにやるつもりだったんだろうよっ。
それを横取りされたら、そりゃあキレるだろっ」

そう言われて、不死川は、あ~!と声をあげた。

「そういや、甘露寺もなんだか洒落た袋に入れてたな。
もしかして二人で交換する予定だったとかか?」
「知らねえよっ!」
と、宇髄はずず~っとコーラをすする。

正確には…他の知人からの話を聞いた限りでは想像は出来る気はするが、当事者にはっきり聞いたわけではないので、知っていると断言はできないという状況なのだが…、

いい結果にはなりそうにないので、正直関わり合いにはなりたくない。
ないのだが、そんな宇髄の内心には全く気付かず、不死川は
「なあ、宇髄。お前、うちのクラスにもダチ多いし、なんなら甘露寺にだって声かけられるだろ?
俺もそういうことなら今回は悪かったって思ってるからよ、間に入ってくれるように頼めねえかァ?」
などと無理難題を押し付けてくる。

「無理っ!」
と、宇髄はそれに容赦なく返したものの、放っておくと放っておいたで本当に悪気なく暴走して問題行動を起こしそうな気がするので、
「とりあえず事情は確認してやる。お前が反省してるってことも伝えてやるが、解決できるかどうかは責任持てねえからな?」
と諦めてそう条件をつけて関わることを了承した。

ああ…面倒なことになりそうだな…と、内心大きくため息をつきながら…






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