──最低だなっ!!
と、まず煉獄君が言う。
彼的には普通の声で言っているつもりなのだろうが、彼の声はとにかく大きくてよく通るので、部屋中のクラスメートたちの注目がこちらに集まった。
と、それに続いて義勇の横にひざまずいて寄り添っていた鱗滝君が義勇の涙を拭いていたハンカチを甘露寺さんに手渡して立ち上がった。
そしてつかつかと不死川の真ん前まで歩を進める。
「他人の財物を故意に、その人の意思に反して盗る行為。窃盗罪。
刑法第235条。
1ヶ月以上10年以下の懲役または1万円以上50万円以下の罰金。
人の物を使えなくしたり壊したりする行為は器物破損。
刑法261条。
3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料。
その他お前がいつも冨岡さんに投げつける暴言は侮辱罪、刑法第231条にもあたるな。
少年法に守られているから刑事罰を与えられないだけで、やっていることは犯罪だ。
懲役にしろ罰金にしろ、本来なら前科がつくようなことを、こんな若年からずっとやり続けているなんて、人として恥ずかしいとは思わないのか?
しかも体力的に自分に敵わない、大人しくて言い返せないとわかっている女子にそれをやるなんて、男として人間としてあまりにみっともない。
恥を知れっ!!」
最初の説明は淡々と、しかし最後の一言だけは煉獄君に負けないくらい腹の底から出す大きな声でそう言う鱗滝君に、男子の感心した、女子の好意全開の熱い視線が向けられる。
…かっこいい…
…カッコいいね……
…冨岡さんうらやま…
…冨岡さん、そこ代わってっ…
ざわざわと女子の中から洩れる声。
教室内に飛び交う見えないハート。
…うん…やっぱり鱗滝君はかっこいいなぁ……
と、泣いていた当事者の義勇ですら思わず見惚れてしまう。
男子は男子で
……鱗滝、なんであんなに詳しいん?
……でもなんか違和感ないよな。
……名探偵〇ナンとかに出てきそう(笑)
……いや、どっちかっつ~と、裁判もののドラマだろ、これは。
と言う鱗滝君に対して反応する者と
──実弥~、犯罪者かよっ、やばくねっ?(大笑い)
──喰い逃げ犯かぁ?(笑)
と、不死川に対して反応して茶化す者に分かれている。
そんな中、不死川はまた怒りと羞恥に真っ赤になって、
──うるせえっ!!!
と鱗滝君の襟首をつかんで拳を振り上げるが、それは彼に当たる前に手首をつかんだ鱗滝君の手に容易に止められる。
「俺がやり返すとお前の方が怪我をするから、ここでやめておいた方がお互いのためだと思うぞ?
俺は物心ついた頃から剣道、柔道、空手を叩き込まれた有段者だから。
一般人に絶対に手をあげるなときつく言われているし、師範に叱られる。
どうしてもやめたくないなら、この体制のまま、誰かに先生を呼びに行ってもらうしかないんだが?」
と、はあぁ~とため息をついて言う鱗滝君。
その言葉に女子からは…きゃあぁ、カッコいい上に強いんだ~という黄色い声が、男子からは…うおぉ~まじかっ!すごくねっ?!!という感嘆の叫びがあがった。
そんな中で空気を読む男、村田君が
──俺…先生呼んでくる?どっちにしても大体みんな作り終わったし…
と、焼き時間中だしちょっと忘れ物を取ってくると職員室に戻っている家庭科の先生を呼びに行こうとドアに向かいかける。
──っざけんなっ!!クソがァ!!!
と、そこで不死川が鱗滝君の手を振りほどいて教室を飛び出して行った。
それにざわつくクラスメート達に落ち着いて後片付けをするように提案をしたあと、鱗滝君は
「村田、すまないが先生呼んで来て事情を話して、不死川を探してくれるよう言ってくれ」
と依頼したあと、義勇の所へ戻って来て
「冨岡さん、ちょっといいか?」
と手を貸して助け起こしてくれる。
義勇がお礼を言ってその手を取ると、
「実は…今回ちょっと計画してたことがあって…」
と、カップケーキ組の方へと連れて行かれた。
そして、はいっ!と渡されたのは袋に入った、可愛らしく花のアイシングが施されたカップケーキ。
…うわぁ…可愛い…
と思わず目を瞠る義勇に彼はにっこりと
「実は今回の調理実習で男女で分かれたいと言われた時に、これはこっそり作る良い機会だと思ったんだ。
古文のノート借りたり教わったりしてた礼にと思って。
冨岡さん、勉強全般出来るから、俺はおしるし程度に英語のスピーキングくらいでしかお返しができてなかったしな。
ずっと何か出来ないかと思っていたから。
実は女子にあげたいからってことで従姉妹にアイシングを教えてもらったんだ」
と言う。
どうやら隣では同じく伊黒君がアイシング加工したカップケーキを甘露寺さんに渡していて、甘露寺さんが歓声をあげていた。
その声にクラスメート達が集まって来て、その見事な出来栄えのカップケーキに感嘆の声があがる。
…いいなぁ!!
…鱗滝君の手作りってだけで羨ましすぎなのに、カップケーキ可愛すぎでしょっ!
ものすごい勢いで向けられるクラスの女子達の羨望の眼差し。
それにも気づかないほど、義勇の目は可愛らしいカップケーキに釘付けになっていた。
……ありがとう…嬉しい…
と、そのカップケーキを受け取って…しかしふと思い出した。
そうだ、義勇も本当ならいつものお礼にと鱗滝君に渡そうとクッキーを焼いたのに…
上手に出来ないと困るからと、2日間も姉と練習したのに…
ここまで上手に出来たとは言わないが、普通に上手に出来たそのクッキーはよりによって不死川に取られて食われてダメになってしまったのだ。
そのことを思うと、一気に悲しい気持ちが押し寄せて来た。
素敵なケーキを貰うのは嬉しいが、義勇の方はお礼も出来なくなってしまったのである。
じわりと浮かぶ涙。
それに慌てる鱗滝君。
「ご、ごめんな?何か嫌だったか?!」
と言う彼に、義勇は自分も入学式の時からずっと色々助けてくれた鱗滝君にお礼に渡したくて、姉と一緒に練習をして今日クッキーを焼いたのだと泣きながら打ち明ける。
「う、嬉しい…けど、ケーキ、可愛くて、すっごく嬉しい…けどっ…私のお礼…なくなっちゃったから……何も出来ない…からっ…お礼…したかったのに……」
としゃくりをあげる義勇に鱗滝君はちょっと考え込んで、
「冨岡さん…ちょっとこっち…」
と、義勇を連れて人の来ない教室の端っこへ。
そして人に聞かれない位置までくると、鱗滝君は少しかがんで義勇に視線を合わせ、
「えっと…入学式の時とか、俺は当然のことをしただけなんだけどな…でも冨岡さんが礼をしたいと思ってくれるなら、頼みたいことがあるんだが…」
と、ちょっと照れたように言う。
「…頼みたい…こと…?」
義勇のことを勉強ができるというが、実は鱗滝君も外部生なのもあって大概成績がいい。
古文以外は義勇と比べても大して遜色がないレベルで、その上義勇が苦手な体育も得意だ。
なので古文を克服した時点で義勇が鱗滝君に出来る事なんてないと思っていたので、不思議に思って視線を向けると、鱗滝君は、これはみんなには秘密な?とシ~っと言うように唇に人差し指を当てて言ったあと、
「実は…俺、すごく甘い物が好きで…S駅前に出来たクレープ屋に行きたいんだけど、一人じゃ恥ずかしくて行けないでいたんだ。
だからもし冨岡さんが嫌じゃなければ、今度付き合ってくれると嬉しいんだが…」
と、打ち明けてくる。
驚いた。
別に恥ずかしくはないと思うが、確かに鱗滝君は硬派な感じで、甘い物など食べそうにないイメージがある。
「…男が一人で甘い物をが食べるのって恥ずかしいんだけど、了承してもらえるにしても断られるにしても、冨岡さんならからかったり言いふらしたりしないと思ったから」
と言う鱗滝君は、いつもはカッコいいのに、今はなんだか可愛いと思った。
「うん。私も行ってみたいし、S駅なら帰り道で定期もあるから。
鱗滝君が部活ない日に行こう」
そう言うと鱗滝君の顔がぱあぁ~っと嬉しそうに輝く。
ま、眩しい!!と内心思いながら、そんな彼と一緒に帰って、その道々にクレープを食べることを思えば、悲しい気持ちも吹っ飛んでしまった。
そうして途中悲しいこともあったが結果的には嬉しいことの多かった調理実習を終えて帰宅。
大学生の姉はもう家にいて、
「義勇、どうだった?好きな子にはちゃんと渡せたの?」
と聞かれたので、一連のことを話して、もらったカップケーキを自慢して、鱗滝君とした約束についても話して、姉妹ではしゃぎながら一日を終えた。
そんな夜…
姉の蔦子は事情を話していた自分の友人にも報告をする。
『う~ん…その男の子…嫌がらせじゃなくて義勇ちゃんが作ったクッキーを欲しかったのかもね…』
「やっぱりそう思う?」
『うん。だって嫌がらせなら中身をゴミ箱に捨てちゃえばいいだけでしょ。
自分で食べるって言うのは…そういうことよねぇ…。
今後揉めないと良いけど…。
義勇ちゃんが好きな男の子と両想いになって、その子に守ってもらえるといいよね』
「そうよねっ。でも義勇はこんなに可愛いし、相手も好きになってくれると思うわっ」
『あはは。蔦子ちゃん、相変わらず義勇ちゃんのこと大好きよね』
そんな姉達の心配をよそに、妹は幸せな気持ちを抱えて夢の中。
明日も楽しく学校へ行くのである。
入力時のもしかしたらコピペミス⁈の報告です(;´д`)ゞ「刑法刑法第235条」→刑法2回繰り返してるよ錆兎...^^;💦お時間のある時にご確認ください(*- -)(*_ _)ペコリ そしてクレープを食べに行き口元を拭いてもらってコレクションが増える予感💕
返信削除ご報告ありがとうございます。修正しました😁
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