彼女が彼に恋した時4_中編

義勇達の班は全員仲良しで、いつも班ごとの行事ではなくても班員が一緒に行動していた。

だが、クッキー希望者とカップケーキ希望者に分かれることになった調理実習で、カップケーキを作るという男子達に甘露寺さんが自分達は今回はクッキーを焼くからと宣言してくれた。

もちろん男子達は女子がそうしたいなら自分達もクッキーを…と言ってくれたのだが、

「そうじゃないのっ!!私と義勇ちゃん、二人で焼くのに意義があるのよっ」
とたいそうな迫力で言い放つ甘露寺さんの気合の入った様子に、非常に空気を読む男である村田君は察したらしい。

「そうだね。女の子にはたまには同性の仲良しでやりたい時もあるよね」
と同調して、男子組を説得してくれた。

それを聞いてまず鱗滝君も何か思うところがあったらしく
「それなら仕方ないな。
でも二人とも、何か手伝えることがあれば何でも言って来てくれ」
と了承。

煉獄君は鱗滝君がそう言うなら…と、同意。
最後まで反対していた伊黒君も鱗滝君が何か耳打ちすると、なんだか納得したようでうんうんと頷いて了承した。


こうして男子組から離れてクッキーを焼くことになった二人。
何故彼らと離れてか、と言えば、当然、彼らに自作のクッキーをあげたいからである。

一緒に作って交換というよりも、彼らが作っていない物をあげるという方が敷居が低い。
2人でそう話し合って、可愛いクッキー型も可愛いラッピングの袋も用意して、義勇は前々日から2日ばかり姉に頼んでレシピを見てクッキーを作る練習までしてこの日を迎えたのだ。

調理実習は3,4時間目で、甘露寺さんと二人でその日はずっとソワソワとしていた。
もちろん、甘露寺さんは伊黒君に、義勇は鱗滝君に渡す予定である。

2時限目が終わると二人は材料とかラッピング、それにエプロンと三角巾を手にいそいそと家庭科室へ。
クッキー組が家庭科室の前の方、カップケーキ組が後ろの方で作るので、そこでそこまでは一緒に来た男子達と手を振って別れた。

それからはとても楽しかった。
義勇は器用とは言えなかったが姉と一所懸命練習したので作業は卒なく出来たし、甘露寺さんは弟妹がいる長子でお菓子作りが趣味という事で手際が良いので、二人ではしゃぎながら作ったクッキーはなかなかの出来栄えだった、

それの粗熱を取って、それぞれ持参した可愛らしい袋に入れてリボンを結ぶ。

「義勇ちゃんのそれ、すごく可愛らしいわ」
と義勇が用意したウサギ模様のビニール袋に甘露寺さんがそう言えば、義勇も
「甘露寺さんの桜模様の袋もすっごく可愛い」
と義勇もにっこり笑って、二人で褒め合って互いの自信を高めていく。

そう、今回のメインはこの作ったクッキーをそれぞれの想い人にプレゼントすることなので、本番はこれからなのだ。

…さあ、行くわよっ!
と甘露寺さんがクッキーの袋を手に小さいが気合のこもった声で言うのに、義勇も、
…うんっ…頑張るっ…
と両手の拳を握り締めて頷いて、テーブルの上の袋に手を伸ばした。

事件が起きたのはまさにその時だった。


──なんだよ、これっ!こんなもんにいれるって馬鹿かァ?
嫌な声と共にひょいっと後ろから手が伸びてきて、今まさに義勇が手にしようと思っていた袋が取られてしまった。

唖然とした一瞬にしゅるりとほどかれるリボン。
それが乱暴に床に放り投げられて、袋の中の想いを込めて焼いたハートと星型のクッキーが2枚一度にいじわるな不死川の口に消えていく。


──ま、綺麗な袋に入れたって所詮他と変わんねえ調理実習のクッキーだよなァ

バァリバァリとそれをかみ砕きながら言う不死川の声にようやく我に返った義勇は

──返してっ!!それ、返してっ!!
と、必死に手を伸ばした。

2枚は食べられてしまったが、まだ3枚残ってる。
そう思ったのだが、そのわずかな希望も

──ちゃんと全部食ってやんぜェ
という言葉と共に、袋から取り出されたが、そこで我に返った甘露寺さんが

──最低っ!!返しなさいよっ!!
と手を伸ばしてそれを阻止しようとした拍子に不死川の手から零れ落ちて、家庭科室の床に落ちて割れてしまった。


…あ……
と固まる3人。

床に落ちて割れたクッキーは義勇の壊れてしまった勇気と楽しい気持ちのようだった。

へなへなと床に崩れ落ちる義勇。
ぽとり、ぽとりと零れ落ちる涙。

それをぬぐってくれたのは、どうやら異変に気付いて駆けつけてくれた鱗滝君だった。
他3人の男子も義勇と甘露寺さんを守るように二人を囲んでいる。




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