最初の席替えは名前順。
その時は前方の席の鱗滝君を後ろの方の席から眺めるのが義勇の楽しみだった。
それまでは遠くで見ているだけだったのが、この時から親しく話せるようになった。
鱗滝君が苦手だという古文を教える代わりに、一時期海外にいたということで先生よりもよほど綺麗な鱗滝君の英語でリスニングの勉強を手伝ってもらう。
そんなやりとりも楽しかった。
なにしろ顔が良いという事は骨格が良く、骨格が良いために声も良いのだろう。
発音が素晴らしい以前に声が素晴らしい。
いわゆるイケボというやつで、義勇のためだけにテキストを読んでくれるのだ。
勉強は元々嫌いではないが、こんなに楽しかったことはない。
そんな日々もそろそろ次の席替えで終了かと思っていたら、次の席替えは自由に班を作る形式で、なんと鱗滝君が義勇を同じ班にと誘ってくれたのだ。
内気で友達が居ない義勇にとって今までは自由に友達同士でという形でのイベントは苦痛以外の何ものでもなかったのだが、今回はこれもありえないほど幸せな形になった。
同じ班には鱗滝君と仲良しだという煉獄君と村田君。
あとは剣道の道場をやっている煉獄君の家で剣道を習っている甘露寺さん。
そして義勇のクラスは男子の方が多いので6班のうち2班は男子が4人になるということで、あとの一人は甘露寺さんの仲良しの伊黒君になった。
規定通り男女3人ずつの班だと、ペアで何かをする場合に一人余ってしまう。
そういう心配のない同性が偶数の班も義勇的には嬉しかった。
煉獄君と甘露寺さんはどちらもよく話す人で、村田君はすごく気遣いの人。
伊黒君はとっつきにくいかと思えば、甘露寺さんの話題になると途端ににこにこ愛想よく聞いてくれるので、非常に対応しやすくていい。
とどのつまり…鱗滝君が誘ってくれた新しい班は、人見知りの義勇にとっても非常に居心地の良い班だった。
特にこれまでこれと言って親しい同性の友達が居なかった義勇にとって、すごく気さくに話しかけてくれる甘露寺さんといるのは楽しい。
彼女は伊黒君が好きだということで、よく恋バナもした。
そう、恋バナだ!
これまで聞いたことも聞かれたこともないそのたぐいの話をするのも本当に楽しい。
甘露寺さんは自分も好きな相手のことを話してくれるし、性格もとても優しくて面倒見も良い子なので、義勇もこれまで姉にしか話したことのない、恋なんて言うにはあまりに恐れ多いが鱗滝君に抱いているほのかな想いを彼女にだけはこっそり打ち明けたのだった。
そうして女子二人でする恋バナ。
一気に縮まる友人との距離。
──二人とも両想いになれるといいわねっ
と、可愛らしく笑う甘露寺さん。
彼女に関して言うならば、伊黒君も目に見えて甘露寺さんのことが好きなようだし、想いを確認しあってないだけで、すでに互いに好きな、いわゆる両片思いというやつなんじゃないだろうか…と義勇は思っているし、周りも『あれで付き合ってないの?』と思っているに違いない。
でも義勇の方はというと小学校から根暗ながり勉と言われ続けてきた自分と、クラスの人気者の鱗滝君ではどう見ても釣り合わないし、両想いになんてなれるはずがない。
少なくとも義勇自身はそう思っている。
でも相手の良い所だけに目を向けてくれる甘露寺さんからすると、絶対に脈があるしお似合いなんだそうだ。
そうならいいな、絶対にそんなことないけど…と思いながらも、二人で話していると、何か一緒に努力をしてみようと前向きな気持ちになれる。
彼女はそんな素晴らしい友人だ。
そんな努力イベントの一環がまさに今日にある。
調理実習…そう、決戦はまさに今日なのである。
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