──えっ?!!バレてたっ?!!!
俺が錆兎さんにキスをしたのが錆兎さんにバレてしまっていた。
それを真菰さんから聞いた時、俺は人生が終わったかと思うくらい衝撃を受けた。
そう思うと悲しくて苦しくて、じわりと浮かぶ涙を拭いてくれながら、真菰さんは
「大丈夫。錆兎は怒っても居ないし、嫌いにもなってないし、なんなら変だとも思ってないから」
と苦笑する。
真菰さんはとても頭の良い人で、その判断はいつでも正しいとは思っているけど、これはさすがにないだろうと思って、
「…怒っても嫌ってもいなかったとしても……変だとは思っている……と、思う」
と反論してみると、真菰さんは
「だ~いじょうぶっ!真菰ちゃんがちゃんと怪しまれないように言っておいてあげたから」
と自信満々にうけおった。
「…なんて言ったの?」
すがるような思いで聞くと、真菰さんはにこりと
「えっとね、義勇君のクラスのキスされた女の子のことで、義勇君が初めてで嫌な相手とはしたくないけど、事故その他でそういうこと起っちゃう可能性もあるから、そのくらいなら錆兎が良いと思ったんじゃない?って」
「それ…信じた?」
いくらなんでもむちゃくちゃなような…と思いつつ聞くと、真菰さんは
「うん!信じたよっ。
なにしろその手の気持ちは本当にわからない錆兎だからねっ」
と、ニコッと笑って見せた。
あ~…うん…錆兎さんだもんね…
と、そのあたりはこの頃になるとさすがに盲目的な状態とは言えなくなって色々見えて来た俺は、その様子が目に浮かぶようで苦笑する。
そう、錆兎さんが完璧に近い男だという持論は変わらないが、こと、恋愛ごととかプライベートのデリケートな心情を察するのが絶望的にできない人間だということはわかっている。
「そっか…真菰さん、ありがとう。
でも…そうなのか…」
俺が錆兎さんに対して恋心を抱いているという事実が錆兎さんにバレなかったのは良い事なのかもしれないけど、相手がそういう錆兎さんだけに、俺もよほど頑張らないと…いや、頑張ったって、真菰さんみたいに好きな相手に養い子として見られていて恋愛相手としての土俵にすらあげてもらえないで終わるのかもしれない…。
良くも悪くも色々複雑な気持ちで俺が肩を落とすと、真菰さんが俺の肩をぽんぽんと叩きながら、グっと親指をたてて
「大丈夫!伊達に恋愛成就失敗歴二十数年じゃないからねっ!
錆兎にはちゃんと、もし万が一、あたしみたいに義勇君が錆兎に恋心を抱くことがあったとしたら、その時は育て子だからとかそういう理由ではじかないで、ちゃんと一人の人間として見て検討しなさいって言っておいたからっ」
と頼もしい笑顔をみせてくれた。
なんと!
ああ、本当に真菰様々だ。
俺はさきほど以上にホッとして、今度は感嘆のため息をついた。
そんな俺に
「だからね、まず目指すのは、居ないと錆兎が困るって思うような人間になることからだねっ」
という真菰さんに大きく頷くと、俺達は俺が22歳になって親子としての区切りがつく日までにそういう意味で錆兎さんの心をつかむべく、作戦会議を始めたのだった。
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