錆兎さんの通信簿_ 28_真菰さんと内緒話2

錆兎さんの事で本人に言えない事は真菰さんへ…そういう認識だったからついつい真菰さんがいいって言っちゃったけど、落ち着いて考えてみたら異性の真菰さんに話すことじゃないのかもしれない…

錆兎さんが部屋を出て真菰さんが来るまでの間、そういうところまで考えがたどり着いた俺は頭を抱えてしまった。

でも真菰さんは俺が思っているよりもずっとすごい人だった。

ノックと共に部屋に入ってくるなり、
「義勇君、大丈夫だよっ。精通の話だったら村田君から錆兎に言ってもらったからっ」
とにこやかに…照れもなく、なんでもないことのように言い放つ。

「え?え?なんでそれっ?!!」
と、誰にも言っていないはずのことを当たり前に口にする真菰さんに俺が驚いてベッドから飛び起きると、真菰さんは笑顔のまま
「あの小さかった義勇君がもうそんな年なんだねぇ…」
と、うんうんと頷いて見せた。
そして教えてくれる。

「実はね、実弥君から昨日の教室での漫画の諸々について電話で錆兎に連絡があってね。
まあお年頃だし?それがきっかけで精通とかもあるかなと。
…って、一応、その手の第二次性徴については保険で習ってるよね?」
と、暗に説明したほうがいい?という顔で聞いてこられたので、俺は慌ててうんうんと首を縦に振った。
いくら真菰さんでも女性にそれを説明してもらうのはさすがにちょっと恥ずかしい気がする。

俺の反応に真菰さんは、──真菰ちゃんは大人の女だから色々気を使わないで良いからね?──と言ったあとに、

「で?そういう時にちょっとアレな夢見たりするじゃない?
錆兎に言いたくなかったのは、その手の夢に錆兎が登場したから?」
といきなりぶち込んできた。

めちゃくちゃ恥ずかしかった。
恥ずかしかったんだけど、俺が今相談できるのはこの皆の頼れるお姉さんの真菰さんしかいない。

だからもう恥を忍んでうんうんと頷くと、細かいシチュエーションなんて口にしていないのに、真菰さんは全てを察したように
「そっかぁ…義勇君も親愛じゃなかったかぁ…」
と苦笑した。

ああ、もうバレてしまっている。
それは仕方ない。
そう思いつつも気になるのは…と思った俺の考えを真菰さんはまるっとお見通しで、
「大丈夫!錆兎が気づいてるのは精通があったんじゃないかな?ってことまでだから。
で、親としては意味を教える気満々で、何故自分に報告がないんだろうって悩んでたから、真菰ちゃんから村田君にこっそりお願いして、親子で性的な話をするなんて普通は恥ずかしくてありえないものだって言ってもらっといたの。
本来は授業で習ったあとは、兄弟とかさ、友達とかとの話で自然に知るものなんだよって言ったらちゃんと納得してたから、大丈夫!」
と、ここに来るまでの状況を説明してくれた。

もう本当に真菰様々だ。
これで俺は錆兎さんの夢で夢精しましたって錆兎さんに報告するなんて羞恥プレイを避けることができる。

とりあえず今の状況にとりあえずホッと胸を撫でおろした俺だったけど、真菰さんはその先を考えていたらしい。

「とりあえず…義勇君が今12歳だから猶予はあと10年だね」
と、突然の発言に俺は
「10年って?」
と首を傾げた。

それに真菰さんはベッドわきの椅子に腰をかけて、持参した紅茶のペットボトルを一本俺に投げてくれて、残った一本を開けて一口。
そして言う。

「義勇君が22歳になって大学を卒業するまであと10年。
つまり錆兎が親でいるって約束している期間の残りね。
錆兎は親でいるって決めてるから10年はどんなに頑張っても親子以上になるのは無理。
でもその期間にどう動くかによって、それ以降が決まってくるからね。
社会人になってここを出て一人暮らしをして錆兎とは親戚のオジサンに戻るか、ワンチャン、同居を継続してそれ以上の関係を目指してみるか。
真菰ちゃんは自分が諦めちゃった部分があるから後者を推してみたい気もするけど、飽くまで義勇君の人生だからね。
どっちを選ぶにしても真菰ちゃんだけは永遠に義勇君のお姉ちゃんとして義勇君に協力して寄り添うよ?」
と、その言葉を聞いた途端、俺は泣いてしまった。

色々考える以前に、真菰さんのその言葉がありがたくて、今後も何があっても一人ぼっちじゃないんだってことにホッとして…。
そして…諦めないでもいいんだと言われていることも嬉しくて…

──俺っ…諦めたくないっ…諦めたくないよ、真菰さん…
俺がしゃくりをあげながら言うと、真菰さんはお姉さんの顔で
──よく言った!じゃあね、これから10年、真菰ちゃんと作戦を立てて行こう!
と頭を撫でてくれる。

俺の事だけじゃなくて錆兎さんの事もすごくわかっている真菰さんが協力してくれるなら、普通なら99%無理な想いでもどりょく次第で叶う気がした。
叶う気がしたんだ。

この時から俺と真菰さんはちょくちょく秘密の会合を持つようになった。
親に隠れて色々内緒話をする兄弟みたいに…。







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