錆兎さんの通信簿_ 27_親愛じゃないと知った朝

中学1年生くらいでああいう漫画とかを見たら、女の人の裸とかで頭がいっぱいになるものなんだろうけど、その日に俺の頭をいっぱいに占めていたのは、登場人物の身体じゃなくて、表情だった。

あとは…なぜか自分をその漫画の男の人に置き換えて妄想するとかはなくて、考えていたのは(彼女さんが居たってことは…錆兎さんもああいうことをしているのかな…)ということで…

そう、なんと俺は自分が女性とそういうことをするところじゃなくて、錆兎さんがそういうことをするのを想像して興奮を覚えてしまったのである。

その自分の反応がどういうことを表しているのかを考えたくなかった。
それを考えたらダメだと思った。

自分でもさすがにそれはない、と、なるべくその漫画を見てからの事は頭から追い払うことにして、学校から帰って一人になってからはひたすらに勉強に没頭する。

それで終われば良かった。
でも悲しいことに俺はどんどん子どもから大人になっていく時期で、そういう問題は避けては通れないものになっていく。

はっきり言ってしまえば、翌日の朝、俺は初めて夢精を経験した。
そう…俺の精通は例の漫画の男女の諸々のシーンの男性に錆兎さんを重ね合わせた夢を見てのことだった。

もうパニックなんてものじゃない。
第二次性徴については小学校の保健の授業で習っていたからそんなに動揺するようなものでもないけれど、見た夢が悪すぎる。

俺は朝から布団をかぶってベッドに籠城して、普段なら自分で起きてくるのに起きてこない俺を心配して起こしに来てくれた錆兎さんを困らせてしまった。


ベッドから出たくない。
体調が悪いわけではない。

その2点だけを告げると、錆兎さんは
「そうか。8時半になったら学校に連絡を入れておくな?」
と特に叱ることも動揺することもせずそう言うと、そのあと
「じゃあ少し話をしようか、義勇」
といつものように言ったけど、そんなことできるはずがない。
錆兎さんにだけは話せないし、なんなら傍に居るのだって恥ずかしい。

だから反射的に
「嫌だっ!!」
と叫ぶように返してしまったが、今にして思えばもう少し言いようというものがあったと思う。

錆兎さん、俺がそう言ってもやっぱり淡々と
「そうか、じゃあ真菰と村田、話すならどっちがいい?
他にもリクエストがあれば頼んでやるが?」
と聞いてきたけど、絶対に傷ついたと思う。

それでも俺の気持ちを優先して動いてくれる錆兎さんは大人だし、本当に俺の事を大切に想ってくれてたんだなと今ならわかる。


でもその時はそんなお気持ち表明どころか感謝の言葉さえ言う余裕がなくて、ただ一言
「真菰さん…」
とだけ言った。

錆兎さんはそれに
「わかった。あいつは今日は急ぎの仕事もないし、午前中はこっちにいるように手配するから、安心しろ」
と布団越しに俺の頭をポンポンと軽く叩くと、そう言って離れて行った。









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