錆兎さんの通信簿_22_空気は読めなくてもカッコいい

錆兎さんが嘘をついた俺の両肩に手を置いて
──義勇、正直に話して欲しい…
と真剣な顔で言った時、俺は錆兎さんを試すような嘘をついたことを心の底から後悔した。

いつでも俺と真っ直ぐ誠実に向かい合ってくれた錆兎さんに対して、俺はなんてことをしてしまったんだろう。
そんな後悔とこれで錆兎さんから嫌われてしまったのではという恐怖で俺が泣き出すと、錆兎さんはすごく怖い顔をした。

でもその後に錆兎さんの口から出て来た言葉は、思いも寄らないものだった。

「義勇、誰かに脅されているのか?
金で片がついてお前がそれでいいというなら100万くらいなら出してやっても全く問題はないが、こういうことは一度払うと相手が調子に乗ってまたせびってくる可能性が高いからな。
それよりは興信所に脅迫の証拠を集めさせて、弁護士を雇って、警察に突き出した方が確実だぞ?
なんなら少しばかり合法からは外れた連中に裏から手を回して相手の親を外国にでも飛ばさせて、相手も二度とお前の目にふれないようにしてやってもいいが…」

びっくりした。
正直何を言われているのか最初は理解できなかった。

でもびっくりしたまま固まる俺の頬に錆兎さんは大きな手で触れて親指ですでに止まってしまった俺の涙の名残をぬぐうと、
「俺は親である以上、お前を何者からも全力で守るから、お前は何も心配しないでいい」
という。

もうわけがわからない。
俺の脳内は錆兎さんがすごくカッコいいということ以外、何もわからなくなってしまった。
真菰さんがいたらまた、『錆兎はほんっとにわけがわかんないこと言い出す空気が読めない男だから』とか言いそうだけど、錆兎さんはこんなにカッコいいんだから空気が読めないくらい全然問題ない気がする。

俺が思わず
──錆兎さん…カッコいいね…
と漏らすと、錆兎さんはちょっとびっくり眼になって、それから
──お前の親だからな。世界一強くて世界一カッコいい男でありたいと思ってるぞ
と破顔一笑した。

俺が思わずそんな錆兎さんに抱き着くと、錆兎さんは抱きしめ返してくれる。
ああ、もう敵わない。
俺が錆兎さんを試そうなんて無理だったんだ。
と、そこで俺は反省をして、素直に錆兎さんに謝って、別に本当に100万円が欲しかったわけじゃなくて、俺にも他の人と同じようにとんでもないおねだりをしたら理由を聞くのかを知りたかったのだと打ち明けた。







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