錆兎さんの通信簿_15_真菰さんと内緒話

俺は一所懸命話したけど、小学1年生で、自分でもよくわかっていない気持ちについてだったから、かなりわかりにくかったと思う。

でも全部聞いた後に
「なるほどね~!わかるよ、わかる」
と軽い調子で頷きつつ笑う真菰さんは、全部わかってくれたようだった。

そしてその後、
「そうだよね~、普通いやだよねっ」
と口にする真菰さんに、俺はびっくりしてしまう。

「普通…いやなの?」
こんなの俺だけが意地悪で俺だけが特別だと思っていたけど、違うのか…。

少しホッとして聞き返すと、真菰さんは
「当たり前だよ!」
と大きく頷く。

「真菰ちゃんだって大好きな人には自分だけを見ていて欲しいよ?
他の人がさ、その大好きな人のことをしたり顔で語ったりしたら、めちゃ嫌な気分になる」

そんな真菰さんの言葉に俺は一瞬ホッとするも、ふと思い立ってハッとした。

「真菰さん、真菰さんの大好きな人って……」

俺が知っている真菰さんの周りに居る大人の男の人って、二人だけ。
錆兎さんと村田さん。

でも村田さんは良い人だけど目立つ人じゃなくて……だから…もしかしたら……

俺はその時悲愴な顔をしていたんだと思うんだけど、真菰さんは俺の考えを察したのか
「違う違う!錆兎じゃないよ?
あれだけはありえないわっ」
と爆笑した。

「錆兎は本当の兄弟みたいなものだから。
世界に錆兎と村田君とあたし、3人取り残されたとしたら、まだ村田君を選ぶくらいにはありえないよ」

そう言う真菰さんの言葉には当時はすごく納得して安心したけど、今はそこでそう言う感じで引き合いに出される村田さんはちょっと可哀そうだなと思う。
いつも3人一緒に居るからで深い意味はないんだろうけど…。

まあそんな俺の安堵はおいておいて、真菰さんはちょっと女の子の顔で
「真菰ちゃんね、真菰ちゃんが大好きな人に真菰ちゃんが他の人と仲良しなのが少し嫌なんだって言われたらもう、めちゃくちゃ嬉しい!」
と笑った。

でもすぐに
「まあ真菰ちゃんの片思いだし、ぜんっぜん女の子として見られてないし、そもそもがそういうことを言うようなタイプの人じゃないんだけどね」
と、少し寂しそうな…残念そうな顔で言う。

「まあね、とりあえず真菰ちゃんのことはおいておいて、すごく大切ですごく大好きな人に自分だけを見て欲しいって言われたら、普通は嬉しいものなんだよ」
と、真菰さんは話を戻した。

「だから錆兎に素直に言っちゃって大丈夫。
絶対に嫌だとかは思わないよ。
だって錆兎はわざわざ義勇君の家族になりたくて親になって、義勇君のこと大好きなんだから」

自信満々に言われると、なんだかそんな気もしてきてしまう。
そこで俺が迷っているのに気づいたのか、真菰さんは

「義勇君にお話ししてもらえなくて、錆兎はちょっと寂しいなって思ってるよ。
大丈夫!もしそれで錆兎が何か嫌だなって思っていそうなら、真菰ちゃんがちゃんと誤解だよ、義勇君は良い子だよってフォローいれてあげるから、安心して話してごらん」
と背中を押してくれた。

そうだよね、俺よりずっと長く錆兎さんと一緒にいる真菰さんがそういうなら、たぶんそうなんだろう。

俺も錆兎さんに隠し事をしているみたいで、それはそれですごく嫌だったから、
「ありがとうっ!お話してくる!」
って真菰さんにお礼を言って、部屋を出て駆け出して行った。








0 件のコメント :

コメントを投稿