話したっ!
錆兎さんに、俺の錆兎さんなのに不死川君が錆兎さんのことを自分の方が仲良しみたいに話すから、すごくもやもやしてて、でも不死川君がせっかく良い子になったのに、そんなことを思っちゃう自分が意地悪な子みたいで、俺がそんな子だってわかったら錆兎さんも俺のことが嫌になっちゃうんじゃないかって怖かったんだって話した。
「なんだ、そんなことだったのか」
と笑った。
あ…笑った顔もすごくカッコいい…と思っていると、いきなり抱きしめられてドキドキする。
「義勇、そのことについてちゃんと話をしておこうか」
と抱きしめられた頭の上から錆兎さんの声。
うん、その声もすごくカッコ良かったんだよ。
俺は抱きしめられたまま、うんうんと頷いて、でもすぐ立ち上がりかける錆兎さんに気づくと、
「錆兎さん、お仕事は?」
と聞いた。
それに錆兎さんは当たり前に
「今日はもう客とのアポイントはないし、あとの仕事は村田や他の職員でもできる。
でもお前の親は俺だけなんだから、お前の話を聞くのは俺しかできないだろう?」
と言うが、さすがに俺もいいのかな?と不安に思って辺りを見回してみる。
すると村田さんも何人もいる職員さん達も苦笑い。
「何にも動揺しない所長が義勇君に避けられてるってずっと落ち着きがなかったですもんね。
そんな状態で仕事されてもみんな落ち着かないので、さっさと行ってください」
と一人が言って、みんながそれにうんうんと頷いた。
「な?みんなも認めているから大丈夫!
そもそもうちの事務所の職員は優秀な人材が揃っているからな。
俺に会いたいという来客の対応以外は俺がやっても他がやっても大してかわりはないから問題はない」
みんなの言葉を受けてそう皆を褒める錆兎さんの言葉に職員さん達もどこか嬉しそうだ。
こうして職員の皆さんに快く…なんならまた頂きもののお菓子を大量に持たされて、俺と錆兎さんは俺達の家に帰ることにする。
そうして帰って二人でリビングに落ち着くと、錆兎さんがさっきのお菓子とジュースを俺に、自分にはコーヒーを煎れて、いつもの
「じゃあ義勇、少し話をしようか」
という言葉で錆兎さんの話が始まった。
「まず義勇、今回何故俺が不死川君と話をしたんだと思う?」
という錆兎さんの質問。
「不死川君がうちのことを誤解してたから」
「ああ、それはそうなんだが…俺もさすがに全世界に我が家の事情を説明しようとは思わない。
でもなぜ不死川君には説明をしたんだと思う?」
聞かれて俺は改めて考えた。
そうだよね。別に世界中の人に自分について知ってもらわなくてもいいよね。
でも不死川君には知ってもらわなければいけない理由……そう思えば答えは出てくる。
「不死川君が誤解したままだと俺に色々言ってきて、俺が嫌な思いをするから」
「そうだ、お前のことがなければ別に不死川君に関しては俺が介入する必要はないと思っている。
俺はお前の親として大切なお前が楽しい学校生活を送れるよう、最善を尽くすつもりだ。
そのために今回の不死川君の諸々の対処としていくつかやり方があったんだ。
一つは…物理的に離れること。
相手を転校に追い込むか、お前が転校するか。
前者なら不死川君の親御さんを良い条件で転職させるとか、逆にまあ…あまり褒められた方法ではないが今の職場で仕事ができないようにするか。
後者なら私立にいくつかコネがあるから、編入試験を受ければ済む。
もう一つはまあ似たようなものだが、彼はお前にはまだ言葉だけだが、クラスメートの中には暴力や物品の破損をされた子もいるから、そちらに手を回して弁護士費用はうちが持つということで訴えを起こさせて、示談…ようは仲直りのことな?の条件として彼を転校させるようにする。
そうじゃなければ不死川君を更生…つまり悪いことをしないような子にするという手もあった。
今回取ったのは最後の手段な?」
難しい事はよくわからないけど、俺があの日、錆兎さんに泣きついた瞬間、錆兎さんはずいぶんたくさんの手段を考えてくれていたことはわかった。
ともあれ、錆兎さんのお話は続く。
「で、何故不死川君を良い子に変えるという手段を取ったかというと…だ」
「不死川君のためにもなるから…だよね?」
と俺が言うと、錆兎さんは苦笑しながら首を横に振った。
「いや?
俺が大切なのはお前だけだ。
なのになぜ俺が大切な俺の義勇を傷つけた相手のためを思って行動しなければいけない理由がある?」
「…え??」
錆兎さんはPTAで学校でもすごく子ども達を想っている素晴らしいオジサンだって思われてて、だから俺は悪い子だった不死川君にも寄り添って良い子にしようと思ったんだと思ってたんだけど、違ったらしい。
びっくりして見上げる俺の頭を優しくなでながら、錆兎さんは説明してくれた。
「あのな、最後の手段以外は、平等な手段とは言えない。
俺がお金持ちで、さらに色々強い友達がたくさんいて、力で踏みつぶす方法だ。
そういう前提でな、それらの方法を使えば簡単に終わるんだが、その代わりに周りからお前はすごく強い力を持った親の居る子どもだと思われる。
それが良いこともあるんだが、友達関係という意味で言うなら、お前にいじわるをした不死川君がすごい権力で懲らしめられたということが広まると、何かお前の気に入らない事をしたら自分もそうなるんじゃないかと思われて、お前に本当の友達が出来にくくなる。
それは困るだろう?
だから誰でもできる方法で、平和的に解決する必要があったんだ。
正直俺は他はどうでもいい。
お前にとって最善の解決を目指したかった。
だからお前が今でも不死川君に言われたことをとても怒っていて、たとえ今後クラスのみんなに怖がられて友達ができなくなろうと、彼を懲らしめないと気が済まないというなら、今からでも彼がお前にしたことどころか、生まれて来たことを後悔するレベルの対応をしてやってもいい。
でもそうじゃないんだろう?」
なんというか…頭を撫でる手つきの優しさと、言っている言葉の容赦のなさの差がすごかった。
でも、普通なら怖いと思うかもしれないその発言も、続く
「俺はお前と…俺を育ててくれた大叔父と、真菰と村田、あとは若干名の友人とうちの事務所の職員以外は、正直どうでも良いと思っていて、その中でも今はお前が一番だ。
真菰よりも村田よりも…それこそ俺自身よりもお前の事を大切に想っている」
という言葉にあまりに真摯な響きがあって、なんだか錆兎さんが大好きだっていう気持ちでいっぱいになってしまう。
「えっとね…つまり…」
「うん?」
「不死川君がいくら錆兎さんと仲良しだと思っていたとしても、錆兎さんが一番仲良しで好きなのは俺ってこと?」
そう、結局俺も不死川君のことは実はどうでもいいのだ。
錆兎さんを取られちゃうのが嫌なだけで、そうじゃなきゃどうでもいい。
そう思って聞くと、錆兎さんはきっぱり
「俺の一番の仲良しで一番大切なのはお前だということはそうだ。その認識で正解だ。
だが…不死川君については俺の仲良しの人間のくくりには入ってないな。
お前に害を与えずお前の役にたってくれるなら、こちらも多少は助けてやってもいい、そんな相手だな」
と言い切った。
俺と不死川君を比べるなんておかしい…そう言う錆兎さんの言葉に嘘はないということはわかる。
だって錆兎さんは俺に嘘をついたりはしないんだから。
そうか…そうなのか…
少なくとも小学校の中で錆兎さんの本当の仲良しは俺だけなんだ。
そう思うと俺はホッとした。
俺はそのあとも色々な人に錆兎さんを取られちゃうかもって悩むんだけど、その時はとりあえずはホッとしたんだ。
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