話し合いの日の次の日から、なんだか不死川君が変わった。
うん…なんというか…親切になった。
「あ~、重いから俺が運ぶから、お前らは箒やれよ」
とか言って代わってあげて、最初はなんなんだろう?って怪しんでいた女子も、
「最近は実弥君、すっごく優しくなったね」
って言うようになった。
実は不死川君は弟や妹がいっぱいいるお兄ちゃんで、他の人を助けてあげたり面倒をみてあげたりするのは得意らしい。
だからみんな不死川君に色々してもらって、助かったねって言うようになって、不死川君も皆を殴っていた頃よりもずっと楽しそうな顔をするようになっていた。
いつもいつも不死川君を怒らないといけなかった先生も、不死川君が意地悪をしなくなったからニコニコしている。
当たり前だけど俺にも親切になったから、俺だって嬉しいはずだ。
だけど俺は不死川君が俺に近づいてくるのが嫌だった。
なんでかというと、彼は俺によく錆兎さんの話をするから。
錆兎さんはすごく完璧な人で──これに対しては本人も真菰さんも異論があるみたいだけど、少なくとも俺にとっては──みんなが錆兎さんのことを大好きになるのは本当に当たり前すぎるくらい当たり前のことなんだけど、不死川君が楽しそうに錆兎さんの話をすると、俺は胸がチクチクしてしまうのだ。
でも最近の不死川君は良い子になったんだから、それが嫌だなって思う俺は良くない。
そんな気持ちを知られたら、さすがに錆兎さんも俺を嫌な子だと思うかもしれない。
そう思うと錆兎さんには絶対に言えなかった。
どう見てもなんでもなくないのに、錆兎さんがどうした?って聞いても俺がなんでもないって答えると、錆兎さんは困った顔をした。
──う~ん…俺に言いたくないことかぁ…
と腕組みをしてため息を一つ。
ああ、錆兎さんを困らせちゃってる…って俺はとても悲しい気持ちになったんだけど、でも錆兎さんに俺が嫌なことを考えるいじわるな子だって思われるのも嫌だ。
どっちにしても嫌で俺も困ってしまう。
その日も錆兎さんの顔を見るのが辛くて、錆兎さんを避けるように真菰さんの所に行ってドアを開けてもらうと、
「ちょうどいいから真菰ちゃんもおさぼりしちゃおうっと!」
と真菰さんがいたずらっぽく笑って、一緒に家に入ってきた。
そうして俺にはジュースを、自分には紅茶を淹れて、事務所でもらったお菓子をいっぱい菓子皿に並べる真菰さん。
「このね、リンドールのチョコ、大好きなんだァ。
美味しいのもだけど、まんまるで可愛くない?」
とまあるい大き目のキャンディみたいな包みを開けて、中のまんまるのチョコを口に放り込む。
錆兎さんはいつも大人の人でお父さんなんだけど、真菰さんはたまにすごく可愛い。
こうやっていると年上ではあってもお母さんというよりお姉さんという感じだ。
まあ実際は錆兎さんいわく、すごくしっかり者で錆兎さんもよく叱られるということだけど…。
今も
「真菰ちゃんは仕事早いから、自分のお仕事って言うのは他の人よりも早く終わっちゃうし、休憩してもいいんだけどね、事務所で完全に休憩モードに入ると他の人の気が散っちゃうじゃない?
義勇君を送っていくってことなら文句も言われないしね~。
丁度よかった!」
と美味しそうにお菓子を頬張っている。
俺も勧められて色とりどりのチョコの中から一つ口に放り込んだ。
…美味しい。
不思議だよね、すごく悩んでて頭がいっぱいいっぱいでも美味しい物を美味しいって感じる部分はちゃんと残ってるんだ。
でも、どうしよう?って気持ちは消えなくて、嬉しい顔と困った顔を繰り返していたんだと思う。
それを見た真菰さんが
「義勇君、どうしたの?
なんだか百面相してるけど、何かあった?
内緒で真菰ちゃんに話してみる?」
と笑って言った。
錆兎さんに知られたら…と思ったけど、真菰さんの『内緒で』の一言に俺は惹かれる。
俺じゃどうしたらいいかわからなくて、誰かに聞いて欲しかったのは本当だから。
「…ない…しょ?」
「うん!内緒。
言うなれば…お父さんやお母さんには言えなくても、お友達やお姉ちゃんには言えることってない?
錆兎は親だけど、真菰ちゃんは違うからね。
お友達やお姉ちゃんみたいな感覚で居てくれると嬉しいかな」
そう言われて、俺はとってもホッとした。
錆兎さんに内緒の話をして良いんだ…。
「…あのね…真菰さん…」
俺は思い切って真菰さんに今悩んでいることを打ち明けた。
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