そうして迎えた入学式当日。
俺は錆兎さんと真菰さんに手を繋がれて小学校の門をくぐった。
まあ…当事者の小学生は皆、いつもよりもオシャレをして自分の手を引く両親は特別に思うものかもしれないけれど…
学校に入って受付を済ませると、そこで子どもは親と離れて教室へ。
でも少し心細くてぎゅっと錆兎さんの手を握る力を強くする俺。
それを無理やり引きはがしたりはせず、錆兎さんは笑って膝をついて俺に視線を合わせると、
「たぶん1時間半くらいか。
離れている間は俺には子どもの様子はわからない。
でも俺はなんでも知りたがりだからな。
どこに行ってどんなことが起こったのか、帰りに俺に教えてくれ」
と頭を撫でてくれた。
そうか…そうだ、約束だった。
俺は子どもを育てる時に何が起きるのかを錆兎さんに教えてあげなければならない。
錆兎さんと離れるからこそ、教えてあげることも出来るのだ。
そんな使命感に駆られた俺は、大きく頷くと錆兎さんの手を放して、先生に連れられて行く。
その俺の姿が見えなくなるまで、錆兎さんはずっと手を振っていてくれた。
今思い出すと、あんなに上等のスーツの膝が汚れることも気にせずに俺に視線を合わせることを優先してくれた錆兎さんはすごいと思う。
本当にやる気満々だったんだな…と、俺は今改めてそれを思いだして懐かしくも微笑ましく思った。
このあとは俺達は教室で指定された自分の席についたりお話を聞いたりしていて、みんな並んで体育館へ。
名前順に列を作って先生のあとについて体育館に入場すると、盛大な拍手に迎えられる。
保護者席を見るとすぐ錆兎さんの宍色の髪をみつけられた。
なんだか自分の方が新一年生みたいにわくわくした目で思い切り拍手をしている錆兎さんの横では真菰さんがビデオを撮ってくれている。
そんな保護者の横を通り抜けて俺達は児童の席に着席した。
それからはよくある校長先生や来賓の人のお話、先生の紹介などがあって、まだ全く知らない校歌や国家を歌ったり。
その後も何度か経験したような、ごくごく普通の入学式だ。
最後にはこの学校のPTA会長さんがお話をしたのだけど、この人がまた顔の良い人だったのは覚えている。
いや、錆兎さんほどではないのだけれど、普通よりは?
まあそれはさておいて、壇上に上がった会長さんは保護者席に目を向けて、ぴたりと一点に視線をやった途端、目を見開いて固まった。
それは一瞬だったんだけど、それが錆兎さんの方だった気がしたから、俺は、(ああ、
あんなに顔の良いPTA会長でもびっくりしちゃうくらいに、錆兎さんはカッコいいんだな)と、納得してしまった。
実はそういうことじゃなくて、理由は他にあったんだけど…。
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