「やっぱりスーツは〇okiとか〇oyamaで新調するべきか?」
で始まった錆兎さんの入学式の参列準備。
どこの?より、どういうの?が大事なのよ。
派手でなくてきちんとフィットしてるならビジネススーツでも良いんだから」
と、同じビル内に住んでいるため、時間が許す限り一緒に朝食を摂っている真菰さんが、いつもの呆れた目を錆兎さんに向けながら言う。
俺の小学校は元の学区か今の家の学区か少し悩んだけど、もともと前の学区に友達がいるわけでもなかったので、急遽、今の学区の小学校へ通えるよう、真菰さんが手配してくれた。
ということで、俺の支度は亡くなった両親が準備してくれていたスーツとランドセルで良いとして、親として入学式に列席する気満々の錆兎さんと、本人曰く錆兎さんが暴走した時のストッパーとして同席する真菰さん、二人の服装でちょっとだけ揉めた。
錆兎さんの考える一般家庭の父親のスーツというのは、よくCMをやっている某2社のものらしい。
もちろん、本人はそういう量販店を利用したことがないので、必要ならそこで仕立てようと言い出すも、真菰さんから別にどの店で買ったかは問題ないとストップが入って、元々持っている仕立ての良いスーツで…ということで落ち着いた。
まあよほど派手とかじゃなければ、父親のスーツなんてそんなにみんな注目していないし変わりはしないと言われれば、錆兎さんも納得した。
問題は真菰さんだ。
「大切な俺の息子の入学式だぞ?!訪問着に決まってるだろう!」
と主張する錆兎さんと、
「あのね、それでなくてもあたし達年齢が年齢だし目立ちかねないからね?
義勇のことを考えたら悪目立ちするよりは無難にスーツがいいって!」
という真菰さん。
確かに俺が当時6歳で、錆兎さん達は25歳。
本当の親としたら、結婚できる年齢ぎりぎりの18歳で結婚して即生まれた子になる。
そういう家庭もあるかもしれないが、一般的にはかなり若い。
だからどうしても多少目立つかもしれないのに、そこで、居なくはないだろうが着物…それも今思えば真菰さんが持っているのならかなり高級なものであろう着物を着て行けば、さすがに目立つのではないだろうか…。
それが嬉しい子どもも居るかもしれないが、俺は内向的な子どもだったので、あまり親が目立って注目を浴びるのは、先々嫌な思いをするかもしれない。
錆兎さんは気にしない人だが、真菰さんはそういう細やかなところにとても気が回る人なのだ。
「ほんっと、錆兎、そういうとこだよっ。
子ども関係はデリケートなんだからねっ!」
と、俺の性格とそういう事情を話して説得にかかる真菰さん。
そこで錆兎さんはちょっと考えて、
「う~ん…まあ義勇が主役だしな。義勇はどう思う?」
と、なんと俺に振ってきた。
え?え?
当然動揺する俺。
実は二人の服装に関してはそれほど思うところはなかったのもあって、錆兎さんの意見を通すのか、真菰さんの意見を通すのかになってしまう。
まあでも…言っていることは真菰さんが正しいとは思うんだけど、錆兎さんを否定したくもなくて、かなり悩んで、
「錆兎さんが洋服なら、それに似合う洋服を着た真菰さんが見たい…かな」
と言って、結局二人ともスーツで来ることになった。
この時のやりとりは、『幼稚園児より空気の読めない男』と、後々まで真菰さんによって語り継がれることになるのだが、まあそれもご愛敬だ。
だって、錆兎さんは少しズレたところがある…ということ以外は本当に完璧な男なんだから。
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