錆兎さんは『経済の神様に愛された男』なのだと真菰さんが言っていた。
それは真菰さんだけじゃなく、その業界でもかなり有名なことらしい。
その人は有名な剣術家で内弟子さんとかもたくさんいて、当時まだ3歳だった二人に必要な世話は内弟子さんがしてくれたらしい。
だから錆兎さんも真菰さんも『普通の家族』の記憶がないんだそうだ。
幸いだったのは二人の大叔父さんはそれなりに裕福で、しかし子どもに過度な贅沢をさせることもなく、その代わりに学費は出してくれたこと。
まあでも、学費を出す以前に錆兎さんは学業も優秀で、中学から特待生として有名私立校にかよっていたそうだ。
そして中学2年のある日、錆兎さんの経済の神様からの寵愛が始まった。
おこづかいで買った宝くじが高額当選したのだそうだ。
そこで錆兎さんは大叔父さんの許可を得てその当選金を元に株式投資を始め、買う銘柄、買う銘柄、みんな爆上がり。
もうこの過去は伝説になっているらしい。
それと並行して公認会計士の勉強をして、国家資格を取った時点で、どうせ公認会計士になれば株の売買はNGとなるということで、持ち株をサクっと全売りして不動産投資に切り替え、大学生の頃にはもう一財産築いていたとのこと。
その一方で有名な剣術家として世界各国に招かれる大叔父さんに同行して語学を学び、人脈を広げ、大学在学中に大手監査法人でインターンとして実績を積んで、卒業後に入社。
実務経験を重ねて正式に国家資格を取り、2年後、自身の人脈もすでにかなり確立していたため、異例の速さで独立。
自身が投資で得た自社ビルで事務所を開業したそうだ。
その頃にはすでに周り中から『経済の神様に愛された男』として知られていたため、意外に験を担ぐ各経営者達からも依頼が殺到。
俺が錆兎さんと出会った時には、開業1年にしてすでに仕事をかなり選べる有名な事務所となっていたらしい。
会社…と言っても限りなく小に近い中小企業の俺の父さんの会社がそんなすごい人に仕事を受けてもらえてたのは、遠縁だったことと、それ以上に、村田さんの叔父さんとうちの父さんが友人だったからだというのも、のちに知った。
まあともあれ、俺はこの日、『経済の神様に愛された男』の自宅兼事務所である、その名も『鱗滝ビル』というひねりもなんにもない、名からするとそうは思えないが、とんでもなくご立派な5階建てのビルに連れて行かれたのであった。
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