──義勇君、キャンディどう?
一方で待たされ組の3人が陣取る教室の片隅。
しょぼんと肩を落とす義勇に当然のごとく気づいた百舞子が差し出す、普段なら義勇が大好きなお菓子にも、義勇は悲し気に首を横に振ってため息を零す。
(錆兎君もいちいち相手にするなよ…っ!)
と一瞬思う百舞子だが、相手にしなければ相手にするまで付きまとわれるので、きっぱりはっきり断るのが一番手っ取り早いのだとはわかっている。
それでも推しが悲しむのは辛いのだ。
そこで百舞子が本格的に不機嫌になる前に、そんな状況にも慣れた村田が
「まあね…Lineで言われてLineで無理!の一言でもいいんだけどさ、対応に気を付けないとなんでか矛先が義勇に行くからさ、この前みたいに。
だから錆兎も面倒でも足を運んで丁寧に対応してんだろ。
ひとえに義勇のためだけに」
と、フォローをいれる。
「…俺の…ため…かな?
告白されて付き合っちゃたりとかしないかな?」
「「ないっ!!」」
と、村田の言葉に心細げに顔を上げる義勇に、それは百舞子と村田、二人が見事なまでにはもった。
その後は
「義勇君ほど可愛い子を日々見てたら目が肥えすぎて、他の人間になんて気がいくはずないからっ!」
と百舞子が、
「錆兎、あれで実は面倒くさがりだからねぇ。
忙しくて時間もないし、人恋しくなったら義勇や俺らがいるから、それ以上に新たに人間関係を作る暇があったら、数式の一つでも解いてる気がする」
と村田が、それぞれ別の視点から理由を説明すると、義勇は
「…だと良いけど……」
と、まだ少し自信なさげにだが、やや浮上したようだ。
「百舞子、キャンディ頂戴。苺味の」
とあ~んと小鳥の雛のように開ける義勇の口に、こちらも推しの機嫌が上昇したことで機嫌が良くなった百舞子が笑顔でまあるい赤いキャンディを放り込む。
そしてそれで片頬を膨らませてコロコロしている推しを満足げに眺めて錆兎を待った。
そうしているうちに、いきなり義勇がガタっと立ち上がって、テチテチチっとなんだか特徴的な足音を立てながら教室の出入り口に駈け寄っていく。
そしてそれから1分もしないうちに戻る錆兎に、抱き着く義勇。
いつもそうなのだが、義勇は錆兎と離れている時、何故か錆兎が戻る時間がわかってでもいるのか、戻る直前に迎えに行く。
──あれ、不思議だよなぁ──と村田が言うと、百舞子は──あれはね、愛よ、愛!──とドヤ顔で言うが、一体何なんだろう…と、思う。
錆兎に同じことを言うと、幼い頃から当たり前すぎて意識したことがなかったのだろう。
少し驚いた顔をして、考え込むように天井に視線を向けると、
「え~っと…」
と、口を開いた。
「たぶん…俺達は産まれた時にはもう何かがつながっていたのかもな。
そういうの、俺もある」
百舞子の発言と一緒でなんの根拠もないといえば無いのだが、錆兎が言うと何故か妙に納得できてしまう。
なるほど。
そうなのか。
2人はそうなのかもしれない。
そう納得してしまえば、今まで何回もあった錆兎に対する告白劇も、本当に無駄な事なんだよなぁ…と思えてしまう。
いっそのこと二人のその妙につながってしまっている絆が皆にわかりやすいように目で見えればいいのにな…。
と、毎度毎度その都度拒否権を与えられることなく一緒に放課後の教室で待たされる村田は、切実にそう思うのである。
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