本当は突然クラスLineのため交換したLineに個人的に学校外で会いたいと連絡が来たのだが、学校外は無理と断った。
異性と二人きりと言うのは色々怖いし、何かあった時の場合に…と、指定した図書室の片隅。
そんな中ならおかしなことも起こらないだろう…そう思いつつも、錆兎は図書館に入った時点で姉にもらったICレコーダーをOnにした。
自意識過剰かもしれないが、一応芸能人でもあるし、なにより錆兎が何かミスをすれば公私共にずっと一緒の義勇にも迷惑をかける。
なので念には念を…だ。
そういうことで、図書館の片隅にある机の前まで足を運ぶと、見覚えはあるクラスの女子が一人待っている。
普通に話はするが、特別に仲が良いというわけでもない程度の関係の相手だ。
容姿はまあ可愛い方で、女子の中でも華やかな、いわゆる1軍と言われるグループに属している。
容姿はまあ一般的には可愛い方だと思うが、錆兎は日々幼い頃から女児用の服のモデルにスカウトされてモデル生活をしていた義勇を日々見ているので、まああまり意識したことはなかった。
黒髪セミロングをハーフアップにしていて、後ろで小さな黒いリボンの髪留めで留めている、女子に多いちょっと清楚系に見えるスタイルだが、別にそれを狙っていると言うよりは校則にひっかかって色々注意されない範囲のオシャレがそれという感じである。
ようは…推薦のために教師の心証が悪くなるような服装は避けつつも、その範囲で自分的に可愛い格好をするという頭があると言うことだ。
「錆兎君っ、呼び出しておいて待たせてごめんね?」
と、提示されていた時間よりはまだ数分早くとも、待たせたことに対しての謝罪から入るあたり、人づきあいに関しても卒がない。
小さな両手を合わせる様子は、まあそのあたりの量産アイドル程度には可愛らしく、おそらく普通の男子高生ならこのレベルの女子に呼び出されたら、かなり浮かれるだろう。
しかしながら錆兎はくどい様だが幼い頃から…それこそ生まれたその日から、ありえないレベルで愛らしかった義勇を目にし続けているので、それで心を動かされることはない。
「いや、大丈夫だ。
それより急かして申し訳ないのだが、このあと予定が詰まっているんで本題に入ってもらっていいだろうか?」
と、笑顔ではあるものの淡々と口にする。
彼女の方は呼び出せたらゆっくり話せると思っていたのだろう。
その言葉に少し戸惑ったようにぱちぱちと瞬きを数回。
しかし瞬時に気を取り直したようで、笑顔を見せた。
「そっか。錆兎君、お仕事もしてるんだもんね。
時間を取らせてごめんね」
と、飽くまで卒なく理解を見せて謝罪まで述べた上で、一瞬息を飲んで、小さく(よしっ!)と呟いたあとに錆兎の目をしっかりと捉えた上で言った。
「あのね、突然だけど…ずっと錆兎君が好きだったの。
芸能人だし表向きはそういうのダメって言われてるんじゃないかなってのは理解してる。
別に公にしないでもいいし、こっそりでも良い。
私とお付き合いしてくれないかな?」
………正直、すごいなと思った。
急に急かされることになっても瞬時に用件とそれに伴うデメリット、そしてそれを回避する意思を端的に…しかし事務的にならないような温度をもって伝えてきている。
「…横山は……すごく頭のいい奴だったんだな」
と思わずそんな感想が錆兎の口から零れ出た。
しかし返事は当然
「ごめん。気持ちは嬉しいが無理だ」
である。
こちらも簡潔に…と思ったが、相手が女子だと泣かれるか?と不安になったが、杞憂だったらしい。
彼女は少しがっかりしたように…でもすがるような真似はせず、
「そっか。わかった。
でも聞いていい?どのあたりが無理だった?」
と本心ではどうだかはわからないが、笑みさえ浮かべて見せた。
そのあたりの対応で、錆兎は惜しいな…と思う。
もし相手が自分じゃなかったら、芸能人でもいけたんじゃないだろうか、これ…と。
「俺は忙しいから。
正直、俺の感覚だと今の横山の告白から最後の言葉の流れまでの対応は満点に近い。
まず見た目。
推薦のために必要な教師の心証を悪くしないよう校則も考慮したうえで、身だしなみを可愛らしく整えている。
時間通りについても相手の方が早く着ていたら軽く謝罪から入る。
俺に急に急かされても用件をわかりやすく端的に…でも事務的にならないように、しかも本来ならこういう時に口にしないデメリットとそれを回避する意思も含めて伝えてくる。
そして…断られたあとに相手に負担にならないようすぐ引いた上で、理由を聞いてきた。
これ…すがられた上で理由を聞かれるととても厳しいから…。
本当にすごく頭の良い出来た女性だと思った」
相手がきちんとした対応をしてくれたのなら、こちらもきちんと伝えようと錆兎はなるべく言葉を尽くす。
「でも俺は現在仕事もあるし、実は急遽推薦じゃなく受験をしようと思って勉強中なんだ。
元々少しばかり予定を詰めすぎる性格をしていて、そこにさらに変更した予定をいれてしまったんで、本当に今時間がない。
念のため…義勇や村田、百舞子と過ごすのは、俺の息抜きだから。
義勇なんて生まれたその日からずっと一緒だし、百舞子も幼稚園、村田は小学生の頃と、まだ気遣いの要らなかった子どもの頃からの付き合いだから、本当に気を使わないで済むんだ。
だからその時間は削れないし、そこに彼女という要素を入れるには、彼女が気の置けない人間として認識できるくらいの時間をかけないとならないが、その時間が取れない」
「…大学入ってからなら?」
「…その頃にはお互いに今の自分じゃないだろう?
不確実な約束はできない。
そもそもが俺は大学に入ったら入ったで、資格試験の勉強とか始めてる気がするし…」
「錆兎君…そう言ってたらずっと彼女できなくない?」
「…う~ん…そうだな。
それならそれで義勇が居るし」
「仲良しだよねっ。
でも義勇君にだっていつか彼女できるかもよ?
そしたらどうする?」
「…泣いてすがるか」
「あははっ。錆兎君でもそういう冗談言っちゃうんだ」
実は何度か告白を断った事はあるのだが、その中でも一番くらいに後味の悪くない告白だった。
最後は笑顔でそんな風に話をして、
「じゃ、義勇君達が教室に居たのは錆兎君待ちかな?
ごめんね、時間を取らせて。
もう行ってあげて?」
とひらひらと手を振られた。
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