ずっと一緒05_高校生時代2_05_ずっと一緒計画

──もちろん断ったよね?!
と詰め寄ってきたのは義勇ではなく百舞子の方だ。

もちろん、百舞子がそういう意味で錆兎に気があるわけではない。
ただ推しを任せるのに選んだ相手に勝手にその役を降りられても困るだけである。
ということで、そこに当事者の恥じらいや戸惑いが無い分、非常に前のめりな反応になる。

逆に当の義勇はと言うと、さきほどの百舞子と村田とのやり取りで浮上したはずが、いざ錆兎が戻ってくるとまた不安になってしまったらしく、言葉をかけられずにいた。

残る一人、村田は、そんな二人の相変わらずさに苦笑している。


「ああ。
俺には新しい人間関係を築く時間的余裕など欠片もないしな」
と、それにそう答える錆兎に、
「なんでそこでそういう言い方するかなぁ!
なに?時間があったら作っちゃうわけ?
はっきり義勇君が居るからって言ってよっ!!」
と、まるで彼氏に詰め寄る彼女のような不満の言葉を口にする百舞子だが、何度もいうが当事者ではない。

だがそういう反応にも慣れたもので、錆兎は
「…それを言うと、義勇をゴタゴタに巻き込みかねないというのは、以前学んだだろう?」
と苦笑する。

そう、以前に告白を断った時は、義勇と百舞子と村田という3人の名ではなく、義勇1人の名だけだしたら、義勇が嫌がらせを受けることになった。

それでも錆兎が他と行ってしまうよりは全然良いと義勇は言うが、錆兎は自分自身が嫌がらせを受けるより遥かに嫌だし、百舞子は大激怒した。

「んで?それでもさ、錆兎が義勇を最優先してるのはもうまるわかりなわけだけど…今回は大丈夫そ?」
と、そこで村田が聞くと、
「ああ、今までで一番よく出来た対応をする相手だった。
相手が俺じゃなきゃ芸能人でも落ちてる可能性あったんじゃないか?」
と錆兎が頷く。

そう、錆兎は『相手が俺でなければ』とそこではっきり明言したわけなのだが、あまりそういう相手に対して誉め言葉を使わない錆兎が手放しで褒めたことで、義勇が泣きそうな顔をして、百舞子が眉をつりあげた。

「なんで褒めてんのよっ?!」
と、村田なら適当に逃げをうつような勢いで言う百舞子に対して、錆兎は全く臆することなく
「義勇に危害を加えるような方向性が全くなさそうだから」
と、どきっぱり。

「あ…それは褒めていいわ」
と、その義勇ファーストな錆兎の答えに、義勇強火担仲間の百舞子はあっさり納得した。


相手に対しての評価はそれでよしとしても、まあそれはそれ。
「確かに相手は良いとして…でも義勇君が不安になるような状況は避けなさいよ。
錆兎君、頭良いんだからさっ!
学年トップは飾りじゃないと証明しなさいっ!」
と、両手を腰に当てて無茶を言い出す百舞子。

いや…義勇を優先して義勇のための時間を作るために彼女という存在を作らないという時点で十分義勇のために行動してると思うけど…と村田は思うわけなのだが、そこでそれを口にしたら百舞子にどやされるだけじゃなく、下手をすればある意味百舞子の同類ともいえる錆兎に後ろから撃たれる可能性すらあるので、黙っておく。

そして…長年、義勇担の二人に振り回されてきたその村田の勘は正しかったようだ。

錆兎は百舞子の無茶な言い分に文句をつけるでもなく、う~ん…と少し考えたあと、いきなり
「今、親を説得中で、こっちの説得が出来て準備が色々出来たら言おうと思ってたんだが、まあ義勇が不安だというなら先に言っておくか…」
ととんでもないことを言い出した。

──実は、大学生になったら大学の近くに家を借りようと思ってるんだ。
へ?と驚く村田と義勇。

一方の百舞子は驚くことなく、
──もちろん義勇君も一緒よね?
と合いの手をいれる。

それに錆兎は
──当然だろ。でないと意味がない。
と頷いた。

「まあ俺達は学生でもあるが社会人でもあるからな。
収入もきちんとあるし、少なくとも俺は大学4年間の家賃が出る程度には貯蓄もしている。
二足の草鞋を履いている身としては通学にかかる時間も惜しいしな。
俺の親はとりあえず父親は自己責任で頑張れと言っているし、母親も説得できたんで、あとは互いに大学進学が完全に決まった時点で物件を探そうと思っているんだ」

「錆兎とずっと一緒っ!!」
と、それを聞いて義勇が目をキラキラさせて、百舞子は満足げに頷いている。

「まあ…俺の親が説得できれば義勇の親は説得できるし、問題は…」
「問題は?」
「蔦子さんだけど、それは真菰がなんとかしてくれると思うから」
と、同じく義勇を可愛がっている義勇の実姉が一番の難関と理解している錆兎は、そこは彼女の親友でもある自分の実姉に任せることにしたらしい。

「…ということで…義勇は絶対にこれから成績落とすなよ?
同じ大学の同じ学部で同じキャンパスに通うという前提の計画だからな?」
と、最後に本人は絶対に否と言わないという前提で話を進める錆兎に、義勇が大きく頷いて、
「うん!絶対っ!!絶対に頑張るからっ!!絶対に錆兎と同じ大学の同じ学部に行くっ!」
と断言したところで、二人の『ゆりかごから墓場までずっと一緒』計画はまた一歩進んだのである。








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