「ここが…水の国のお城……」
結局あれから一日弱。
義勇を乗せた馬が辿りついたのは、自国、森の国の城とは大きさも堅固さも全く違う、見た事もないほど荘厳な城だった。
もしかして眠っていなかったのだろうか…
それにしてはたいして疲れた様子もなく、終始義勇を気遣いながらここまで連れて来てくれた。
だから実はやっぱり影武者?と思ったのだが、城に着くと大勢の家臣が恭しくひざまずき、その中にはなんだか偉そうな貴族や将軍のような人間も混じっているため、おそらく本物のようだ。
大国水の国ではどうやら王自身も鍛え抜かれた武人と言う事らしい。
城門をくぐるとまず自分が馬から降り、当たり前に義勇を抱きおろしてくれるが、もしこれが本物の水の国の王なのだとすれば、自分は今まで…いや、現在進行形で随分と不敬な態度を取っているのではないだろうか…
そう思うと足が震えた。
本来は嵐の国に来るはずが水の国に来てしまったが、一応大国の王と対峙した時に口にするべき挨拶の文言は国を出る前からずっと脳内で繰り返していて暗記していた。
が、今回はいきなり襲撃を受け、こうして急遽、馬を飛ばす事になってすっかり忘れていた。
まず何をおいてもこれを言わなければならないと口を酸っぱくして言われていたのに……
どうしよう…いまさら…だろうか?
ああ、もちろん今更なのはわかっているが、言わないよりはマシなのだろうか…
そんな風に義勇が迷っている間も状況はどんどん進んでいく。
どうやら今回は襲撃が予測されて急遽王自らが特別な部隊を率いて出陣したので予定外の王の不在だとのことで、その間の仕事がたまっているらしい。
気づけば事務官にせっつかれた王は義勇を部屋に案内するように城の者に申しつけて早々に行ってしまった。
ということで、挨拶の言葉を口にする機会を逸したまま、義勇は知らない者の中に取り残されていた。
そしてそれは残念という以上に義勇には意味のあることだった。
ここまでは本当にカッコよくて優しい王様に連れられての楽しい旅だったのだが、本題が解決していない。
そう、義勇は嵐の国に送られるはずだったのである。
つまり…今後どこに送られるのかがわかっていないのだ。
確か途中で水の国の王、錆兎の言葉では、『ここは危険だからいったん引いて、その後、森の国でも嵐の国でも、その他どこか別に希望があれば希望の場所に送ってやる』ということだったが、その中に『水の国』の一言はなかった。
つまり彼の脳内にはここに置いておいてくれるという選択肢はなかったのだろう。
ここに来たのは飽くまで自分が一番かってがわかって色々を考えることができる安全な場所というだけで、そのあとは義勇はどこかへと送られる。
安全な場所についたとたん、あっさり離れて行ったのも、彼が義勇をここに連れてきたのは、義勇が必要だからじゃなく、義勇を安全な場所にいったん保護する必要があったからというだけだ。
…悲しい……
城は綺麗で安全で、ここに居る間はおそらくこの上なく丁重に扱われるであろうことがわかるのに、義勇は耐えきれないくらい悲しい気持ちになった。
人質でも待遇が悪くてもいい。
ここにおいて欲しい…。
そうは思うものの、自分はそんなことを言い出せる立場ではないことを、義勇自身が誰よりもわかっていたのである。
誤変換報告です^^;「膝まづき」→「跪き」かと…8話でも同様の誤変換があったと思うのでお暇な時にご確認ください(*- -)(*_ _)ペコリ
返信削除ご指摘ありがとうございました。修正しました。
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