生贄の祈り_ver.SBG_13_目覚める少年

こうして回収して数時間。
途中馬を乗り換えてもまだ少年は気を失ったまま。

(色々疲れたんだろうなぁ……)
と、錆兎はため息をついた。

自分や杏寿郎などは幼い頃から自国はもちろん、互いの国を行き来して、色々な物を見て色々な物を経験して、時には危険な状況を目の当たりにして乗り越えてと、そんな風に育ってきたが、王族の子どもなんてものは、普通は早々に城から出たりしないし、当然危険な場所に足を踏み入れたりすることもない。
そう、はっきり言ってしまえば箱入りなのが普通である。

そんな少年が初めて外に出た理由が実質他国に対する人質になるためで、さらにその道中で別の国からの襲撃である。
少年にとって外界はどんなに恐ろしいところに思えただろうか……

(怖いばかりのとこじゃないんだけどな…ごめんな?
今後は俺がきっちりガードして、綺麗なところも見せてやるし、楽しい事も教えてやるから)

ふわふわの漆黒の髪がばらつく広く白い額にちゅっと小さく口づけを落とせば、綺麗な三日月形の眉毛がぴくりと動いた。

起きるか…?と思ったが、まだ起きない。
そっとそのまだ幼さの残るふっくらとした頬にそっと触れると、また眉毛がぴくりと動く。
続いてふにゅり…とむずかるように眉間に皺が寄るのが幼子のようで愛らしい。

ああ…ちいさいな……
心の中がほんわりと温かくなる。
小さな生き物は和む。
無条件に可愛い。

馬がちょうど野生の林檎の並木を通りがかると、錆兎は少し手綱を緩めた。
このあたりにいるうちに目が覚めてくれれば、もぎたてのリンゴを食べさせてやれるのだが…と、腕の中を覗き込むが、白い瞼は相変わらず閉じたまま。

やっぱりまだ目が覚めないか…と、腕の中をもう一度見下ろすと、白い瞼がピクリと動いて、ゆっくりあがっていく。

そして現れる夢見るように澄んだ深い青色の瞳。
それは光にとけてしまいそうな儚い美しさをたたえている。

驚かさないように…威圧感を与えないように…錆兎が細心の注意を払って
「丁度良かった。もう国境からはだいぶ離れたし一休みしようかと思ってたんだ」
と、微笑みかけると、丸い目がきょとんとさらに丸くなった。

そして不思議そうにきょろきょろとあたりを見回す仕草が小動物じみていて、とても可愛らしい。

結局なんとか少し気を許してもらえたらしく、一緒にもぎたてのリンゴを食べ、再度馬を走らせる頃には、大人しく腕の中にいてくれるくらいにはなっていた。

単に振り落とされるのが怖いだけなのだろうが、時折り身を寄せてぎゅっとサーコートの胸元を掴んでくるのが嬉しい。

そうして胸元に抱え込んだ少年は錆兎のマントの中からもの珍しげに過ぎて行く景色をながめている。
雲行きが怪しいので少しでも早く着くようにと全速力で馬を走らせているので、舌をかまないようにおしゃべりなどは出来ないが、時折り腕の中に視線を落とすと手の中の小さな子どもはおずおずとその視線に気づいて見あげてくるので、その都度ニコリと微笑みかけると、戸惑ったように大きな瞳が揺れた。

これで微笑み返してくれるくらい馴染んでくれるようになると嬉しいのだが…まあ、最初に気を失われた事を考えると、今はこうやって寄りそってくれるだけで良しとしよう。











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