生贄の祈り_ver.SBG_8_保護

こうして錆兎は少年を拾った……というか、救出した。

15人ほどの一般兵など水獅子王の敵ではない。
あっという間に全員地面の上に転がして、残酷なシーンを見せるのも…と、そっと少年の視界を塞ぐためにかけていた自分のマントをその小さな頭から取り去ると、ガラス玉のようにまん丸く澄んだブルーの目がまばたきもせずに錆兎を凝視している。

「…怪我…ないか?」
と、身じろぎもせず硬直している少年に手を伸ばすと、少年は身を固くして、ぎゅっと目を強く閉じて縮こまった。

…あ………
と、錆兎は伸ばした手をひっこめる。

怯えられている…のか?
怖い…か、そりゃあそうだな……

血に濡れた手…
剣を振り回し、命を奪ったばかりの手だ。

戦場などでも戦闘員以外は手にかけない主義ではあるし、非戦闘員に関してはきちんと安全な場所に誘導すらするようにはしているのだが、当たり前だが他国で戦闘中は民間人には悪魔か猛獣にでも出会ったような目で見られる。

だが犠牲を出さないためには信用してもらわねばならない時も多々あるので、錆兎はそういう対応にも慣れていた。

上から威圧感を与えないように、少年に視線を合わせるように膝まづくと、

「怖い思いさせて悪かった。驚かせてすまないな。
俺は錆兎と言う。
水の国の人間だが、森の国の王子が嵐の国に向かう途中で暴漢が狙っているという話を聞いて、人道的な観点から介入することにした。
とりあえずここは危険だからいったん引いて、その後、森の国でも嵐の国でも、その他どこか別に希望があれば希望の場所に送ってやるから、大人しく着いてきて欲しい。
もちろん知らない人間にいきなりそんなことを言われても不安だろうからな。
俺が怪しい動きを取ったと思えばこれで身を守れ」
と、そう言って、その少年の小さな手にも扱えるように鞘に収まった小さな短剣を差し出した。

少年は差し出された短剣と錆兎を交互に見比べて白い手を伸ばすと、短剣に…というよりもそれが収まった鞘に興味を示したようである。

──これ…すごく高価なものですよね?
と少年の目のような色合いの大きなサファイアが埋まった金の鞘をさすさすしながら言うので、ひどく怯えられているのかと思っていたのもあって、なんだか気が抜けてしまう。

少年はそれで唖然とする錆兎にハッとしたのか、
──ご、ごめんなさいっ!これ1本でどのくらいご飯が食べられるのかなと思って…
と、慌てたように王族らしからぬことを言うのでさらに気が抜けた。

とりあえず…思ったよりも警戒はされていないらしい。

そう判断して錆兎が
「そうだな…どの程度の食事かによるが…そのあたりの話は移動しながらでいいか?
別にそれは欲しいならやるから」
と言うと、この状況での自分の発言が恥ずかしかったのだろう。
少年は真っ赤になって、それからコクコクと頷いた。








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