遠くから聞こえる足音。
息をひそめて気配を消して錆兎はそれが十分な距離まで近づいてくるのをジッと待つ。
普通にしていれば立っているだけでも圧倒的な存在感を持つ男と言われるが、何も気配を消せないわけじゃない。
爪を隠せない獣なんてただの愚か者だ。
能ある鷹ほど上手に爪は隠すものである。
基本的には開けた戦場などで戦う兵などではないようだ。
金属の音がしないのをみると、装備は皮をメインとした軽装備。
武器も同じように大型ではなく小型だろう。
森の中で目的を遂げると言う事を考えると、正しい選択だ。
おそらく援軍が来るとは思っていないようで警戒もせず、気配も声も殺せてないあたりが上等な兵とは言えないとは思うが……
(俺も武器は長剣だな…)
ギリギリ逃げられない位置まで待ちつつ、錆兎はなお音で確認する。
視線と言うのは意外に気づく人間が多いのだ。
集団の中で指示を出しているのが1人。
これが集団のボス。
集団の中央部に若干足音が重いのが1人。
これがターゲットだ。
おそらく人質を抱えているのがこいつだ。
ふむ…そろそろ頃合いか……
十分に距離を引きつけ木の陰から飛び出て瞬時に敵を視覚で確認。
1,2,3……15人。
おし、予測通り。
集団の後方にいる男がボス。
集団の中央後方には白い塊を抱えた男……
………
………
………
え?……少女?…いや…少年…なの、か?……
折れてしまいそうに細く華奢な身体
夜目にもわかる真っ白な肌にの漆黒の髪。
まるで朝靄のようにふんわりと闇に浮かびあがる繊細なレースのヴェールの下、森の奥深くでひっそりと水を湛える泉を体現したような澄んだ青いの瞳からは朝露のような涙の雫が溢れて、クルンとカールした驚くほど豊かで長いまつげの先を濡らしていた。
背に白い羽が生えていないのが不思議なくらい儚くも綺麗な子ども
それをこんな風に乱暴に拉致しようなんて、許される事ではない。
――俺の領土で随分とふざけた真似をしてくれたものだっ
と、ふつふつと腹の底から沸き起こる怒りの感情
――報いを受けろ
そう、これは国同士の利害とかではない。
まったくもって正しい罰…天誅だ。
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